セールスのオンボーディング期間を3分の1に短縮した内製の「AIロープレ」
LayerX は、複雑化するバックオフィスプロダクト群の習得難易度に対処するため、内製した AI ロールプレイシステムを導入し、セールス担当者のオンボーディング期間を約 3 分の 1 に短縮する成果を達成しました。
キーポイント
複雑化するプロダクト環境とオンボーディングの壁
請求書、経費精算など 13 以上のバックオフィスプロダクトと法制度知識を習得する必要があり、新メンバーだけでなく既存メンバーも常にキャッチアップが必要となる課題が生じていた。
内製 AI ロールプレイシステムの導入
組織拡大とプロダクト増加に伴う「即戦力化」の課題に対し、AI を活用した模擬商談(ロープレ)システムを自社開発し、反復練習の効率化を図った。
オンボーディング期間の劇的短縮
AI ロールプレイによる効果的なトレーニングにより、セールス担当者のオンボーディング期間を約 3 分の 1 に短縮し、組織拡大スピードを維持しながら即戦力化を実現した。
実戦プロセスの再現
画面共有を行い実際のプロダクトデモを見せるという、商談における最重要プロセスをリアルに再現した点にこだわった。
内製開発の目的
コスト削減だけでなく、既存社員の負担軽減やスケジュール調整のボトルネック解消のために自社で開発を行った。
商談シナリオの自動生成機能
13 製品に伴う無限の組み合わせを人間が手動設定する非効率を解消するため、よくあるパターンを自動生成する機能を内製システムに実装し、運用コストをほぼゼロに抑えています。
SalesPortal との統合による学習連携
AI ロープレを既存のセールス・イネーブルメントプロダクト「SalesPortal」の一機能として統合し、フィードバック時に課題点に即した動画や資料へ直ちに誘導するシームレスな学習エコシステムを構築しました。
重要な引用
「いかに組織の拡大スピードを落とさずに、全員を最速で即戦力化するか」という課題に直面します
現在の LP(ランディングページ)に掲載されているだけでも、プロダクトは 13 個あります
オンボーディング期間を約 1/3 に短縮した
「画面共有をして、実際のプロダクトのデモを見せながら提案すること」です。
この「デモを含んだ実践的な練習」の体験にこだわりました。
「今回の商談でここが課題だったので、SalesPortal 内にあるこの学習コンテンツを見て復習してね!」と、ピンポイントで最適な教材への動線を提示する機能を実装しました
影響分析・編集コメントを表示
影響分析
本記事は、AI が単なる情報検索ツールではなく、組織開発(OD)や人材育成の現場で具体的な業務プロセスを代替・補完する実用的なソリューションとして定着しつつあることを示しています。特に複雑なドメイン知識が必要な領域において、AI ロールプレイが学習コストと時間を大幅に削減できる実証例は、他社におけるオンボーディング戦略の見直しや導入検討の重要な参考事例となります。
編集コメント
LayerX のように、自社の複雑なドメイン知識を AI に学習させ、具体的な業務シナリオ(商談)で活用する「実装型 AI」の事例は非常に示唆に富んでいます。

*この note は、「#日めくり LayerX」と題して発信するブログリレーの 2026 年 6 月 25 日の記事として投稿しています。*
はじめに
こんにちは、バクラク事業部でソフトウェアエンジニアをしている Tomoaki です。
新しい仲間が増えることは大きな力になりますが、同時に「いかに組織の拡大スピードを落とさずに、全員を最速で即戦力化するか」という課題に直面します。
この記事では、バクラクのセールスメンバー向けオンボーディングにおける課題を、内製した「AI ロープレ」システムでどのように解決し、オンボーディング期間を約 1/3 に短縮したかについて共有します。
組織拡大とプロダクト増加に伴うオンボーディングの課題
現在、私たちが提供する「バクラク」は、請求書、経費精算、法人カード、稟議など、バックオフィス業務を効率化するサービスです。現在の LP(ランディングページ)に掲載されているだけでも、プロダクトは 13 個あります。(2026 年 6 月 25 日現在)
事業としては「コンパウンド戦略」などと呼んでおり、非常に強力な一方で、新メンバーのオンボーディングという観点では、キャッチアップすべき総量が非常に多いことを意味します。経理・総務の深いドメイン知識や各種法制度(電子帳簿保存法やインボイス制度など)に加え、これら 13 プロダクトの仕様を理解し、お客様に瞬時に提案できるようにならなければなりません。
さらに、バクラクのプロダクトは今後も増え続けるため、キャッチアップの難易度は今後さらに上がっていきます。
また、この課題は新メンバーだけのものではありません。新しいプロダクトがリリースされるたびに、既存のメンバー(全セールス)にとっても「新しいプロダクトでの商談の練習・キャッチアップ」が必要になります。組織拡大とプロダクトの増加が同時に進むなかで、新メンバーも既存メンバーも、常に高い頻度で打席に立ってアップデートし続けなければならない環境にありました。
これまで、オンボーディングの総仕上げ・最終関門として「ランチングチェック」と呼ばれる対人ロールプレイング(ロープレ)を実施していましたが、この環境下でいくつかの課題が顕在化していました。
💡 ランチングチェック(Launch Check)とは
主に SaaS 企業の営業やカスタマーサクセス部門において、担当者が顧客への商談を一人で行える水準に達しているかを確認する「最終実技テスト」です。
実際の商談を想定し、事業責任者やトップセールスをお客様役に見立てて実施されます。提案内容、ヒアリング力、顧客の課題に対する解決策の提示などが基準を満たしているか厳しく評価され、このテストをクリアして初めて「会社の代表」として一人でお客様を担当することが許可されます。
品質を担保する上で不可欠なプロセスですが、組織とプロダクトが急成長する中で以下の課題に直面していました。
- 既存社員の負担増
プロダクト数が多い分ロープレの回数も多く(月に10回以上になることも)、既存メンバー(特に事業責任者やトッププレイヤー)の業務時間を大きく圧迫してしまう。
- 「先輩待ち」によるスケジュールの間延び
新メンバーが多い月は、既存社員との予定が合わず、ランチングチェックを実施するまでに数日間のリードタイムが発生。ロープレ待ちがオンボーディング完了のボトルネックになってしまう。
- 新メンバーの心理的ハードル
「忙しい先輩の時間を奪ってしまう」「まだ自信がないのに、本番さながらの環境で失敗したらどうしよう」というプレッシャーが生まれてしまう。
より実戦に近い環境を作るための内製開発
コスト面も大きな理由の一つですが、私たちが自社開発に踏み切った理由は主に3つあります。
1. 「画面共有をしてデモを見せる」という実戦プロセスの再現
最大の決め手は、バクラクのセールスにおける最重要プロセスをリアルに再現するためでした。
商談において最も重要なのは、ただトークを磨くことではありません。「画面共有をして、実際のプロダクトのデモを見せながら提案すること」です。
お客様の複雑な業務課題に対し、13あるプロダクト群から最適な組み合わせを選び、実際の画面の動きを見せながら「どう業務がバクラクになるのか」を体感していただく。この「デモを含んだ実践的な練習」の体験にこだわりました。
2. 「バクラクでよくある商談シナリオ」の自動生成機能
13個もプロダクトがあると、それに伴う商談のシチュエーション(業界、会社規模、現在の課題、担当者のペルソナなど)の組み合わせは無限になります。これらを人間が手動で一つずつ考えて設定するのは、運用側の工数として完全に破綻してしまいます。既製品の SaaS でも、自社向けのニッチなユースケースに沿ったシナリオは手動で作り込む必要があり、設定の手間が大きな壁になっていました。
そこで内製システムでは、「バクラクでよくあるパターンの商談シナリオ」を自動生成する機能を実装しました。これにより、運用コストをほぼゼロに抑えながら、実践に即したリアルなシナリオを簡単に供給できる環境を作ることができました。
3. 社内プロダクト「SalesPortal」基盤への統合と、豊富な学習コンテンツとの連携
また、アーキテクチャや今後の拡張性を考えた際にも、内製には大きなメリットがありました。バクラク事業部には、すでに「SalesPortal」と呼ばれる内製のセールス・イネーブルメントプロダクトが存在していました。
今回の AI ロープレ機能を独立した別システムとして切り離すのではなく、SalesPortal の一機能として実装することで、既存の認証基盤や UI コンポーネントをそのまま共通化し、爆速で開発を進めることができました。
さらに、SalesPortal 上に内製した最大の強みは、SalesPortal 内に豊富に蓄積されている「学習用コンテンツ(動画や資料)」と AI ロープレを直接紐付けられる点にあります。
AI ロープレ終了後のフィードバックの際、単にテキストで課題点を指摘するだけでなく、「今回の商談でここが課題だったので、SalesPortal 内にあるこの学習コンテンツを見て復習してね!」と、ピンポイントで最適な教材への動線を提示する機能を実装しました。
「課題の発見(ロープレ)」から「インプット(学習コンテンツ)」までがシームレスに SalesPortal 内で完結するため、新メンバーが迷わずに自律的な学習を進められる最適なエコシステムを構築することを目指しました。
今回目指したのは「普段のオンライン商談と全く同じ感覚で使える Web アプリケーション」です。
新メンバーは、使い慣れたオンライン会議ツールと変わらない UI で「画面共有」ボタンを押し、自身の PC でバクラクのデモ環境を動かしながら、マイクに向かってお客様(AI)に話しかけます。AI は音声と商談のコンテキストをリアルタイムに理解し、音声でリアルなレスポンスを返してくれます。
使い慣れた UI と音声 API を組み合わせることで、「実戦さながらの打席」を再現しています。このリアルタイムな音声対話の裏側は、以下のようなシンプルな技術スタックで実装しています。
会話エンジン
- リアルタイム会話
- 商談終了後に履歴を送信
- 評価結果を表示
STT: 音声認識(Speech-to-Text)
Next.js アプリ
LLM: 会話生成(Large Language Model)
TTS: 音声合成(Text-to-Speech)
ユーザー
LLM: 商談評価
STT(Speech-to-Text)/ TTS(Text-to-Speech)には現在 Azure のモデルを採用しています。音声認識と発話を高速に処理し、遅延のない自然な「対話」のベースを支えています。
しかし、音声系のモデルは進化が非常に激しいです。どのモデルがいいかは日々試行錯誤しており、このブログを書いてる今現在もいくつかの新しいモデルを検討して置き換えようとしています。(このあたりの詳しい話はまたどこかでブログにしたいなと思います)
導入成果
1. 圧倒的な「打席数」で高速PDCAを回す
立ち上がりの初期フェーズにおいては、やはり泥臭く一定の量をこなさないと、プロダクトの説明がスラスラできるようにはなりません。とにかく「量をこなして体で覚えること」が不可欠です。
これまでは、対人でのロープレは既存社員の工数や心理的ハードルもあり、多くて10回程度が限界でした。しかしAIロープレの導入後、新メンバーは1週間で多い人は30回近くものロープレを自発的に実施し、圧倒的な量をこなしています。
誰に気兼ねすることもなく、AIからのフィードバックとSalesPortal内の学習コンテンツを往復しながら、納得がいくまで無限に高速でPDCA(Plan-Do-Check-Act:計画・実行・評価・改善)を回せる。先輩の時間を気にせず、自分のペースで、いつでも何度でも気兼ねなく練習・失敗できる心理的安全性が活きています。
2. オンボーディング期間の短縮と対人ロープレの削減
AIが壁打ち相手となり、スラスラ話せるようになるための「基礎固め」をすべて引き受けてくれるようになった結果、人間が対面でロープレを行う段階での提案のクオリティは向上し、対人のロープレの回数は減り、現場デビューまでの期間も短縮されました。
評価指標
Before(これまで)
After(AIロープレ導入後)
ランチング1回目
約1~2ヶ月
約3週
ランチング2回目
約3ヶ月
約1ヶ月
対人ロープレ回数
10回以上
約3回
現場のオンボーディング担当者やメンバーからは、このようなリアルなフィードバックをもらっています。
「6月入社の方だとWeeklyで多い人は30回近くAIロープレを実施してくれていることで、改善サイクルはかなり早いです!圧倒的な量をこなせているおかげでプロダクト説明がスラスラできるようになり、ランチング2回目が『入社1ヶ月以内』でできているのは大きな成果です」
「これまでは長い人だとランチングまで1ヶ月かかっていました。導入後は10営業日くらいで受けられています。人数が多いときに発生していた『先輩待ち』の影響が完全になくなりました!」
今後の課題:より正確で高度な評価とフィードバックの実現
AIロープレの導入によって「量をこなす」という初期の大きな壁は突破できましたが、同時に次なる課題も見えてきました。それは「より正確なロープレの評価とフィードバック」の実現です。
これはAI相手・人間相手に関わらず共通する課題ですが、実際の商談では単に正しい説明ができるだけでは不十分です。
- 流暢にデモを操作しながら、スムーズにプロダクトの提案ができているか
- 一方的に話すのではなく、適切な「間」を取れているか
- 対話を通じて、お客様の潜在的な課題や情報を適切に引き出せているか
このように、実戦で評価すべき観点は無限に存在します。現在のAIロープレでも基本的なフィードバックは可能ですが、よりハイレベルな営業スキルを身につけるための高度なコーチングとしては、改善の余地がまだまだたくさんあります。
今後は、AIによる分析・評価の精度をさらに高め、熟練セールスの暗黙知をシステムに落とし込むことで、「量」だけでなく「質」の面でもさらなるアップデートを図っていきたいと考えています。
まとめ
AIロープレを内製したことにより、新メンバーは誰に気兼ねすることもなく圧倒的な回数の打席に立って打率を上げることができ、既存メンバーは本当に必要な「熟練した人間にしかできない高度なフィードバック」に時間を使えるようになりました。
今後プロダクトがさらに増え、キャッチアップがより大変になっていくバクラクにおいて、新メンバーだけでなく既存メンバーも新しい商談にいつでも挑戦・練習できる「AIロープレ」で組織の成長を加速させていきたいです。
LayerXではプロダクトへのAI組み込みはもちろん、社内オペレーションについても「AI前提で、どう仕組みを作れるか」を大切にしています。現場のメンバーと一緒に模索しながら、事業の課題を解くための開発に取り組んでいます。
これからも、私たちが掲げる「Bet AI」のもと、新メンバーがいち早く活躍でき、既存メンバーも気持ちよくサポートできる最高の開発・オンボーディング体験を追求していきます!興味が少しでもある方は是非お話ししましょう!
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*このnoteは、「#日めくりLayerX」と題して発信するブログリレーの2026年6月25日の記事として投稿しています。*
はじめに
こんにちは、バクラク事業部でソフトウェアエンジニアをしているTomoakiです。
新しい仲間が増えることは大きな力になりますが、同時に「いかに組織の拡大スピードを落とさずに、全員を最速で即戦力化するか」という課題に直面します。
この記事では、バクラクのセールスメンバー向けオンボーディングにおける課題を、内製した「AIロープレ」システムでどのように解決し、オンボーディング期間を約1/3に短縮したかについて共有します。
組織拡大とプロダクト増加に伴うオンボーディングの課題
現在、私たちが提供する「バクラク」は、請求書、経費精算、法人カード、稟議など、バックオフィス業務を効率化するサービスです。現在のLP(ランディングページ)に掲載されているだけでも、プロダクトは13個あります。(2026年6月25日現在)
事業としては「コンパウンド戦略」などと呼んでおり、非常に強力な一方で、新メンバーのオンボーディングという観点では、キャッチアップすべき総量が非常に多いことを意味します。経理・総務の深いドメイン知識や各種法制度(電子帳簿保存法やインボイス制度など)に加え、これら13プロダクトの仕様を理解し、お客様に瞬時に提案できるようにならなければなりません。
さらに、バクラクのプロダクトは今後も増え続けるため、キャッチアップの難易度は今後さらに上がっていきます。
また、この課題は新メンバーだけのものではありません。新しいプロダクトがリリースされるたびに、既存のメンバー(全セールス)にとっても「新しいプロダクトでの商談の練習・キャッチアップ」が必要になります。 組織拡大とプロダクトの増加が同時に進むなかで、新メンバーも既存メンバーも、常に高い頻度で打席に立ってアップデートし続けなければならない環境にありました。
これまで、オンボーディングの総仕上げ・最終関門として「ランチングチェック」と呼ばれる対人ロールプレイング(ロープレ)を実施していましたが、この環境下でいくつかの課題が顕在化していました。
💡 ランチングチェック(Launch Check)とは
主にSaaS企業の営業やカスタマーサクセス部門において、担当者が顧客への商談を一人で行える水準に達しているかを確認する「最終実技テスト」です。
実際の商談を想定し、事業責任者やトップセールスをお客様役に見立てて実施されます。提案内容、ヒアリング力、顧客の課題に対する解決策の提示などが基準を満たしているか厳しく評価され、このテストをクリアして初めて「会社の代表」として一人でお客様を担当することが許可されます。
品質を担保する上で不可欠なプロセスですが、組織とプロダクトが急成長する中で以下の課題に直面していました。
- 既存社員の負担増
プロダクト数が多い分ロープレの回数も多く(月に10回以上になることも)、既存メンバー(特に事業責任者やトッププレイヤー)の業務時間を大きく圧迫してしまう。
- 「先輩待ち」によるスケジュールの間延び
新メンバーが多い月は、既存社員との予定が合わず、ランチングチェックを実施するまでに数日間のリードタイムが発生。ロープレ待ちがオンボーディング完了のボトルネックになってしまう。
- 新メンバーの心理的ハードル
「忙しい先輩の時間を奪ってしまう」「まだ自信がないのに、本番さながらの環境で失敗したらどうしよう」というプレッシャーが生まれてしまう。
より実戦に近い環境を作るための内製開発
コスト面も大きな理由の一つですが、私たちが自社開発に踏み切った理由は主に3つあります。
1. 「画面共有をしてデモを見せる」という実戦プロセスの再現
最大の決め手は、バクラクのセールスにおける最重要プロセスをリアルに再現するためでした。
商談において最も重要なのは、ただトークを磨くことではありません。「画面共有をして、実際のプロダクトのデモを見せながら提案すること」です。
お客様の複雑な業務課題に対し、13あるプロダクト群から最適な組み合わせを選び、実際の画面の動きを見せながら「どう業務がバクラクになるのか」を体感していただく。この「デモを含んだ実践的な練習」の体験にこだわりました。
2. 「バクラクでよくある商談シナリオ」の自動生成機能
13個もプロダクトがあると、それに伴う商談のシチュエーション(業界、会社規模、現在の課題、担当者のペルソナなど)の組み合わせは無限になります。これらを人間が手動で一つずつ考えて設定するのは、運用側の工数として完全に破綻してしまいます。既製品のSaaSでも、自社向けのニッチなユースケースに沿ったシナリオは手動で作り込む必要があり、設定の手間が大きな壁になっていました。
そこで内製システムでは、「バクラクでよくあるパターンの商談シナリオ」を自動生成する機能を実装しました。これにより、運用コストをほぼゼロに抑えながら、実践に即したリアルなシナリオを簡単に供給できる環境を作ることができました。
3. 社内プロダクト「SalesPortal」基盤への統合と、豊富な学習コンテンツとの連携
また、アーキテクチャや今後の拡張性を考えた際にも、内製には大きなメリットがありました。バクラク事業部には、すでに 「SalesPortal」 と呼ばれる内製のセールス・イネーブルメントプロダクトが存在していました。
今回のAIロープレ機能を独立した別システムとして切り離すのではなく、SalesPortalの一機能として実装することで、既存の認証基盤やUIコンポーネントをそのまま共通化し、爆速で開発を進めることができました。
さらに、SalesPortal上に内製した最大の強みは、SalesPortal内に豊富に蓄積されている「学習用コンテンツ(動画や資料)」とAIロープレを直接紐付けられる点にあります。
AIロープレ終了後のフィードバックの際、単にテキストで課題点を指摘するだけでなく、「今回の商談でここが課題だったので、SalesPortal内にあるこの学習コンテンツを見て復習してね!」と、ピンポイントで最適な教材への動線を提示する機能を実装しました。
「課題の発見(ロープレ)」から「インプット(学習コンテンツ)」までがシームレスにSalesPortal内で完結するため、新メンバーが迷わずに自律的な学習を進められる最適なエコシステムを構築することを目指しました。
今回目指したのは「普段のオンライン商談と全く同じ感覚で使えるWebアプリケーション」です。
新メンバーは、使い慣れたオンライン会議ツールと変わらないUIで「画面共有」ボタンを押し、自身のPCでバクラクのデモ環境を動かしながら、マイクに向かってお客様(AI)に話しかけます。AIは音声と商談のコンテキストをリアルタイムに理解し、音声でリアルなレスポンスを返してくれます。
使い慣れたUIと音声APIを組み合わせることで、「実戦さながらの打席」を再現しています。このリアルタイムな音声対話の裏側は、以下のようなシンプルな技術スタックで実装しています。
会話エンジン1. リアルタイム会話2. 商談終了後に履歴を送信3. 評価結果を表示STT: 音声認識Next.js アプリLLM: 会話生成TTS: 音声合成ユーザーLLM: 商談評価STT(Speech-to-Text) / TTS(Text-to-Speech)には現在Azureのモデルを採用しています。音声認識と発話を高速に処理し、遅延のない自然な「対話」のベースを支えています。
しかし、音声系のモデルは進化が非常に激しいです。どのモデルがいいかは日々試行錯誤しており、このブログを書いてる今現在もいくつかの新しいモデルを検討して置き換えようとしています。(このあたりの詳しい話はまたどこかでブログにしたいなと思います)
導入成果
1. 圧倒的な「打席数」で高速PDCAを回す
立ち上がりの初期フェーズにおいては、やはり泥臭く一定の量をこなさないと、プロダクトの説明がスラスラできるようにはなりません。とにかく「量をこなして体で覚えること」が不可欠です。
これまでは、対人でのロープレは既存社員の工数や心理的ハードルもあり、多くて10回程度が限界でした。しかしAIロープレの導入後、新メンバーは1週間で多い人は30回近くものロープレを自発的に実施し、圧倒的な量をこなしています。
誰に気兼ねすることもなく、AIからのフィードバックとSalesPortal内の学習コンテンツを往復しながら、納得がいくまで無限に高速でPDCAを回せる。先輩の時間を気にせず、自分のペースで、いつでも何度でも気兼ねなく練習・失敗できる心理的安全性が活きています。
2. オンボーディング期間の短縮と対人ロープレの削減
AIが壁打ち相手となり、スラスラ話せるようになるための「基礎固め」をすべて引き受けてくれるようになった結果、人間が対面でロープレを行う段階での提案のクオリティは向上し、対人のロープレの回数は減り、現場デビューまでの期間も短縮されました。
評価指標
Before(これまで)
After(AIロープレ導入後)
ランチング1回目
約1~2ヶ月
約3週
ランチング2回目
約3ヶ月
約1ヶ月
対人ロープレ回数
10回以上
約3回
現場のオンボーディング担当者やメンバーからは、このようなリアルなフィードバックをもらっています。
「6月入社の方だとWeeklyで多い人は30回近くAIロープレを実施してくれていることで、改善サイクルはかなり早いです!圧倒的な量をこなせているおかげでプロダクト説明がスラスラできるようになり、ランチング2回目が『入社1ヶ月以内』でできているのは大きな成果です」
「これまでは長い人だとランチングまで1ヶ月かかっていました。導入後は10営業日くらいで受けられています。人数が多いときに発生していた『先輩待ち』の影響が完全になくなりました!」
今後の課題:より正確で高度な評価とフィードバックの実現
AIロープレの導入によって「量をこなす」という初期の大きな壁は突破できましたが、同時に次なる課題も見えてきました。それは「より正確なロープレの評価とフィードバック」の実現です。
これはAI相手・人間相手に関わらず共通する課題ですが、実際の商談では単に正しい説明ができるだけでは不十分です。
- 流暢にデモを操作しながら、スムーズにプロダクトの提案ができているか
- 一方的に話すのではなく、適切な「間」を取れているか
- 対話を通じて、お客様の潜在的な課題や情報を適切に引き出せているか
このように、実戦で評価すべき観点は無限に存在します。現在のAIロープレでも基本的なフィードバックは可能ですが、よりハイレベルな営業スキルを身につけるための高度なコーチングとしては、改善の余地がまだまだたくさんあります。
今後は、AIによる分析・評価の精度をさらに高め、熟練セールスの暗黙知をシステムに落とし込むことで、「量」だけでなく「質」の面でもさらなるアップデートを図っていきたいと考えています。
まとめ
AIロープレを内製したことにより、新メンバーは誰に気兼ねすることもなく圧倒的な回数の打席に立って打率を上げることができ、既存メンバーは本当に必要な「熟練した人間にしかできない高度なフィードバック」に時間を使えるようになりました。
今後プロダクトがさらに増え、キャッチアップがより大変になっていくバクラクにおいて、新メンバーだけでなく既存メンバーも新しい商談にいつでも挑戦・練習できる「AIロープレ」で組織の成長を加速させていきたいです。
LayerXではプロダクトへのAI組み込みはもちろん、社内オペレーションについても「AI前提で、どう仕組みを作れるか」を大切にしています。現場のメンバーと一緒に模索しながら、事業の課題を解くための開発に取り組んでいます。
これからも、私たちが掲げる「Bet AI」のもと、新メンバーがいち早く活躍でき、既存メンバーも気持ちよくサポートできる最高の開発・オンボーディング体験を追求していきます!興味が少しでもある方は是非お話ししましょう!
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