AI時代の人材配置を考える:固定された組織から変化する組織へ
Algomatic は、生成AIの台頭により従来の人事配置が巨大な組み合わせ問題として再定義される中、スキルとタスクを紐付けることで組織最適化を図るべきだと提言している。
キーポイント
異動配置の本質的課題
大企業の人事異動は単なるマッチングではなく、後任不在の回避や部署間調整を伴う「玉突き」現象を含む巨大な組み合わせ最適化問題である。
生成AIによる組織構造の変容
生成AIの導入により最適な業務フロー自体が変化するため、固定された組織図からタスク単位で柔軟に変化する組織構造への移行が必要となる。
タスク単位のAI影響分析
Anthropicの研究などを踏まえ、企業全体ではなく「タスク単位」でAIの影響度を評価し、どの業務を自動化・支援すべきかを明確にする重要性が示唆される。
スキルとタスクの再結合
従来の役職や部署枠組みに縛られず、個人のスキルと具体的なタスク要件を媒介として結びつけることで、AI時代における人材配置の最適化が可能となる。
組織構造そのものの変容
AI時代における異動配置は、固定された組織への人員割当ではなく、業務効率化やスキル変化に伴う「最適な組織構造の再設計」を前提とした人材再配置の問題となる。
リソース再投資の戦略的必要性
AIによる時間削減が自動的に価値を生むわけではなく、生じた人的リソースを顧客理解や新規事業など「どの領域へ再投資するか」という明確な方向性が不可欠である。
ツールより戦略の重要性
BCGの研究により、AIツールのアクセス権限そのものよりも、AI活用によるリソース配分の明確さ(戦略)が組織への測定可能なインパクトに強く関連していることが示されている。
重要な引用
Aさんを動かしたとき、組織全体として最も良い状態は何かを考えること。つまり、局所最適ではなく、全社最適を考える必要があります。
生成AIによって、最適な組織構造そのものが変わり始めている
タスク単位でAI影響を見る重要性
AIで時間を削減できるかではなく、AIで生まれた人的リソースをどこに再投資するのかが重要になるということです。
ツールアクセスの強さだけではなく、戦略の明確さが測定可能なインパクトと強く関係していることを示しています。
重要なのは、職務名ではなく、その職務を構成するタスクの内訳を見ることです。
影響分析・編集コメントを表示
影響分析
この記事は、生成AIの普及が単なる業務効率化ツールではなく、組織構造そのものを再構築する要因であることを指摘しており、人事戦略の根幹に関わる重要な示唆を含んでいます。特に「タスク単位」での分析と「全社最適化」への視点転換は、日本企業のDX推進における具体的なアクションプランとして即座に活用可能な知見です。
編集コメント
人事領域におけるAIの活用を「業務効率化」から「組織構造の再設計」という戦略的レベルへ引き上げる視点が含まれており、HRテック分野の重要な潮流を示しています。
こんにちは!
Algomatic の大見川です。
Algomatic 初夏のアドベントカレンダー、9 日目です。まだまだ続いていきますので、他の記事もぜひ楽しみにしていてください!
前回の記事は山中さんが、HHKB と Karabiner を使った「こだわりキーマップ」を、その設計思想とあわせて紹介しています!
さて、今回はがっつり技術に踏み込んだ話というよりは、いわゆる HR テック(人事テクノロジー)領域の異動配置について、私が所属する組織変革本部の取り組みをご紹介します。少し長めの記事になりますが、以下の目次に沿って順番に進めていきますので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです!
- 1. 異動配置は、もともと巨大な組み合わせ問題である
- 2. 生成 AI(Generative AI)によって、最適な組織構造そのものが変わり始めている
- 3. Anthropic の研究が示す、タスク単位で AI 影響を見る重要性
- 4. Japan AI Index から考える、日本企業における AI 影響度の見方
- 5. スキルを媒介に、人とタスクを結びつける
- 6. AI 戦略から、組織構造・人材要件・配置をつなぐ
- 7. おわりに:AI 時代に必要なのは、人を活かす配置設計
1. 異動配置は、もともと巨大な組み合わせ問題である
大企業の異動配置は、今までも難しい意思決定でした。
数十人から数百人規模の異動を考えるとき、単に「この人はこの部署に合いそう」という話では済みません。本人のスキル、希望、等級、勤務地、後任、部署ごとの必要人数、部門間の利害調整など、多くの制約が絡みます。
さらに、1 人を動かすと元部署に穴が空き、その後任を考えると別の部署にも影響が出ます。いわゆる玉突き配置です。
たとえば、A さんを成長領域の部署に異動させると、A さんが抜けた部署では後任が必要になります。その後任として B さんを動かすと、今度は B さんの元部署に穴が空く。さらに C さんを動かす必要が出る。
このように、1 人の異動は複数部署に波及します。
しかも実際の大企業では、このような異動を 1 件ずつ考えるわけではありません。数十人から数百人規模の異動を、同じタイミングで同時に検討する必要があります。
つまり異動配置は、単純なマッチングではありません。誰を動かすかだけでなく、誰を後任にするか、どの部署の人員を維持するかなどの組織全体のバランスを考える問題です。

数学的に考えるなら、異動配置は以下のように制約の多い組み合わせ問題として捉えられます。
- 各部署の必要人数を満たす
- 必要なスキルを満たす
- 後任不在の穴を作らない
- 等級・勤務地・本人希望などの制約を満たす
- 短期の業務継続と中長期の育成を両立する
問題は、「A さんに一番合う部署はどこか」ではありません。
A さんを動かしたとき、組織全体として最も良い状態は何かを考えることです。
つまり、局所最適ではなく、全社最適(グローバル最適)を考える必要があります。
そして今、このもともと難しかった異動配置に、生成 AI という新しい変数が加わっています。
ここで重要なのは、AIによって一部の業務が効率化されることだけではありません。より本質的には、AIによって最適な組織構造そのものが変わり始めていることです。
これまでは、ある程度決められた組織構造の中で、誰をどこに配置するかを考えればよかった。しかしAI時代には、業務の一部が効率化され、人が担うべきタスクの比重が変わり、必要なスキルも変わります。
その結果、異動配置は「固定された組織への人の割当」ではなく、変化する組織構造に対する人材再配置の問題になります。
2. 生成AIによって、最適な組織構造そのものが変わり始めている
では、生成AIによって具体的に何が変わるのでしょうか。
営業部には営業の役割があり、経理部には経理の役割があり、人事部には人事の役割がある。各部署に必要人数があり、その枠に対して誰を配置するかを考える。
もちろん、それだけでも十分に難しいですが、生成AIの登場によってより難しくなっているのは、配置先である組織構造そのものが変わり始めていることです。
AIによって、ある業務の一部は効率化されます。別の業務では、人間が担う役割の比重が変わります。さらに、AIを前提に業務プロセスそのものを再設計すれば、必要な部署や役割の形も変わります。
従来の配置問題は、既存の組織構造と各部署・職務の必要人数を前提にして、誰をどこに配置するかを考える問題でした。
一方でAI時代の配置問題では、AIによって業務や必要スキルが変わり、企業戦略に応じて組織構造そのものを再検討する必要があります。そのうえで、再検討した組織構造に対して、必要な人材を定義し、既存社員をどう再配置するかを考えることになります。
つまり、AI時代の異動配置では、次の2つを同時に考える必要があります。
- AIによる影響を踏まえた、より適切な組織構造は何か
- 再検討した組織構造に対して、誰をどこに配置するのが適切か
組織構造の再検討がないままAIを導入しても、個人の作業時間は減るかもしれません。しかし、その余力をどの組織能力の強化に使うのか、どの領域へ人材を再配置するのかが曖昧なままでは、事業成果にはつながりにくくなります。
BCGの「Strategy Matters More Than Tools」でも、AIによる時間削減が自動的に価値へ変わるわけではないことが示されています。定期的にAIを使う現場社員の多くが、節約した時間を何に使うべきかについて十分なガイダンスを受けておらず、その時間を戦略的な仕事に再投資できていないことが示されています。
この結果は、AI活用の本質的な問いを示しています。
AIで時間を削減できるかではなく、AIで生まれた人的リソースをどこに再投資するのかが重要になるということです。
AIによって生まれた時間を、より深い顧客理解に使うのか。業務プロセスの再設計に使うのか。新規事業の検証に使うのか。あるいは、別の成長領域へ人を動かすのか。
この方向性がなければ、AIは「個人を少し楽にするツール」に留まります。逆に、方向性があれば、AIは組織構造を変えるきっかけになります。
BCG は、AI ツールへのアクセスと AI 戦略の明確さを比較し、ツールのアクセス権限の強さだけでなく、戦略の明確さが測定可能なインパクトと強く関連していることを示しています。

3. Anthropic の研究が示す、タスク単位で AI 影響を見る重要性
AI による影響を考慮しながら最適な組織構造を考える上で重要になるのが、職務名ではなく、職務を構成するタスク(task)を見るという考え方です。
組織構造を見直すには、単に「営業部」「経理部」「人事部」といった部署単位で考えるだけでは不十分です。なぜなら、AI の影響は部署名や職務名に一律でかかるのではなく、その中に含まれる個別のタスクごとに異なるからです。
Anthropic の Labor market impacts of AI: A new measure and early evidence では、AI が労働市場に与える影響を測るために、職業単位ではなく、その職業を構成するタスク単位で AI による影響度(AI exposure)を捉える枠組みが示されています。
この研究では、米国の職業・タスク情報に関するデータである O*NET と、Anthropic Economic Index 上の利用データ、さらにタスクごとの AI exposure の推定値を組み合わせることで、AI がどのようなタスクに影響し、それが職業全体にどの程度関係するのかを分析しています。
この考え方は、AI 時代の組織構造を考えるうえでも重要です。
たとえば同じ営業職でも、顧客リスト作成、提案資料作成、商談、契約交渉、社内調整では、AI の影響度が異なります。
もし職種単位で「営業職は AI 影響が高い / 低い」と判断してしまうと、かなり粗い意思決定になります。
重要なのは、職務名ではなく、その職務を構成するタスクの内訳を見ることです。
- どのタスクは AI によって効率化されやすいのか
- どのタスクは引き続き人が担う必要があるのか
- どのタスクの比重が下がり、どのタスクの重要性が相対的に上がるのか
- その変化によって、部署や職務の役割分担をどう見直すべきか
このようにタスク単位で見ることで、AI 導入後の組織構造をより具体的に考えられるようになります。
AI 影響度を見る目的は、単に「どの仕事が AI に置き換わるか」を知ることではなく、AI によってタスク構成がどう変わり、その結果として、どのような組織構造や役割分担が望ましいのかを考えることにあります。

ただし、Anthropic の研究は主に海外の職業・タスク情報や AI 利用データをもとにしたものです。そのため、日本企業の異動配置に活用するには、日本固有の産業構造や雇用慣行を踏まえて読み替える必要があります。
そこで次に、日本における AI 影響度の見方として、Japan AI Index の取り組みを見ていきます
4. Japan AI Index から考える、日本企業における AI 影響度の見方
Anthropic の研究のように、職業ではなくタスクに着目する発想は、AI 時代の人材配置を考えるうえで大きな示唆があります。
一方で、それをそのまま日本企業の異動配置に当てはめられるかというと、そう単純ではありません。
理由は主に 3 つあります。
1 つ目は、O*NET が米国の職業・タスク情報を前提にしていることです。
Anthropic の分析は、O*NET に含まれる米国の職業・タスク情報を基盤にしています。O*NET は非常に有用なデータ体系ですが、米国の職業分類や業務内容を前提にしているため、日本企業の社内職務にそのまま適用できるとは限りません。
そのため、日本企業で活用するには、自社の職務・業務実態に合わせた読み替えが必要になります。
2 つ目は、雇用調整のメカニズムの違いです。
Anthropic の労働市場影響分析は、労働市場全体で「どの職業に影響が出るか」を見るうえでは自然なアプローチです。
しかし、日本の大企業における異動配置の問題は、単に労働市場で職業が増える・減るという話ではありません。
むしろ実務上の問いは、既存社員を社内のどこへ動かすのかです。
日本企業では、AI で特定業務が効率化されたからといって、すぐに外部労働市場で人材を入れ替えるというより、既存社員を別部署へ配置転換したり、リスキリング(再教育)したり、成長領域へシフトしたりする判断が重要になります。
3 つ目は、AI 利用実態の違いです。
Anthropic Economic Index は、実際の Claude 利用データを使っている点に価値があります。一方で、実際の AI 利用は国、業界、企業規模、セキュリティポリシー、言語、業務慣行によって大きく変わります。
そこで重要になるのが、Japan AI Indexのような取り組みです。
Japan AI Index は、日本における生成 AI の社会的インパクトを継続的に観測・分析するための基盤として発表されたものです。LLM(大規模言語モデル)利用に関する統計データと、日本国内の経済活動・雇用・教育に関する公的統計・調査データを統合し、業界・職種・タスク単位で AI の影響を可視化しようとしています。
これは、海外の研究をそのまま日本企業に適用するのではなく、日本固有の産業構造や雇用慣行を踏まえて AI 影響を捉えるための重要な取り組みです。
ただし、Japan AI Index も企業内の異動配置をそのまま解くものではありません。企業が実際に活用するには、さらに自社の職務、タスク、スキル、人材データに落とし込む必要があります。

5. スキルを媒介に、人とタスクを結びつける
ここまでの話を企業内の異動配置に落とし込むときに重要になるのが、スキルを媒介にして人とタスクを結びつける、スキルベースという考え方です。
AI の影響は、部署名や職務名ではなく、タスクに対して起きます。
そのため、AI 時代の人材配置では、単に「この人は営業職だから営業系部署へ」「この人は経理職だから経理系部署へ」と考えるだけでは不十分になります。
見るべきなのは、次の3つの関係です。
- 業務は、どのようなタスクで構成されているのか
- それぞれのタスクには、どのようなスキルが必要なのか
- 社員は、どのようなスキルを持っているのか
つまり、タスクと人を直接結びつけるのではなく、タスクが要求するスキルと人が持つスキルを照合することで、配置可能性を考えるということです。
たとえば、同じ「営業職」でも、実際の仕事の中身は人によって違います。
新規顧客開拓が中心の営業では、企業リスト作成、情報収集、初回提案資料の作成などの比重が高いかもしれません。一方で、既存大口顧客の深耕が中心の営業では、顧客理解、関係構築、複数部門の利害調整、契約交渉の比重が高いかもしれません。
このとき、「営業職」というラベルだけを見ても、AI 影響度も、今後必要になるスキルも判断できません。
しかし、タスクに分解すると見方が変わります。
- 情報収集には、調査力、仮説構築、業界理解が必要になる
- 提案作成には、構成力、ストーリーテリング、顧客理解が必要になる
- 部門間調整には、ステークホルダー調整、合意形成、プロジェクト推進が必要になる
- 契約交渉には、論点整理、リスク判断、合意形成が必要になる
このように整理すると、社員を「現在の職務名」ではなく、「どのタスクを担えるスキルを持っている人か」として捉えられるようになります。
たとえば、Aさんが営業部に所属していたとしても、Aさんの強みが顧客理解、課題発見、提案設計、社内調整にあるなら、営業企画だけでなく、事業開発、カスタマーサクセス、導入コンサルティング、変革推進部門でも活躍できる可能性があります。
これは、異動候補を広げるうえで重要です。
従来の職務ベースの配置では、異動先は現在の職種に近い部署に閉じやすくなります。
一方で、スキルを媒介にすると、職務名は違っていても、実は近いタスクを担える人材を見つけやすくなります。
つまり、スキルベースの価値は、単に「社員のスキル一覧を作ること」ではありません。
タスクが要求するスキルと、人が持つスキルを接続することで、職務名だけでは見えなかった配置可能性を発見できることにあります。
さらにAIの影響を重ねると、この考え方はより重要になります。
AIによって、情報収集、初期調査、定型レポート作成、資料のたたき台作成のようなタスクの比重は下がるかもしれません。
一方で、問いの設計、意思決定、顧客・現場理解、部門間調整、責任を伴う判断のようなタスクの重要性は相対的に高まる可能性があります。
そのときに必要なのは、「どの職務がAIに置き換わるか」を見ることではありません。
AIによって変化したタスク構成に対して、どのスキルを持つ人をどこに配置すべきかを見ることです。
これは、AIによって求められるスキルが変わり始めている一方で、企業側の育成や配置の仕組みが、その変化に追いついていないことを示唆しています。
だからこそ、AI時代の人材配置では、職務名だけで人を見るのではなく、タスクとスキルを軸に、人と業務を結びつける必要があります。
6. AI戦略から、組織構造・人材要件・配置をつなぐ
ここまで見てきたように、AI時代の異動配置では、単に「AI影響度を測る」だけでは不十分です。
AI影響度を測ることで、どの業務が変わりそうかは見えてきます。しかし、それだけでは、企業としてどの組織構造を目指すのか、そのためにどのような人材が必要になるのか、既存社員をどこに配置すべきなのかまでは決まりません。
重要なのは、AI影響度を単体で見ることではなく、企業としてのAI戦略から、組織構造、人材要件、配置決定までをつなげて考えることです。
まず、AIを使ってどの業務を効率化するのか、どの業務プロセスを再設計するのか、どの事業領域に人的リソースを再投資するのかを明確にする必要があります。
その戦略に応じて、組織構造は変わります。既存業務の一部をAIで効率化するだけなら変化は限定的かもしれません。しかし、AIを前提に業務プロセスそのものを再設計するなら、部署間の役割分担や必要な職務も変わっていきます。
組織構造が変わると、必要な人材も変わります。たとえば、問いを設計する力、AIの出力を評価する力、複数部門を巻き込む力、顧客や現場を深く理解する力、責任を持って意思決定する力の重要性は高まる可能性があります。
つまり、AI時代の配置決定は、現在の組織に対して誰をどこに置くかではなく、AI戦略によって変化する組織に対して誰をどこに置くかを考える問題になります。
このとき必要なのは、次のような情報をつなげて見ることです。
- 企業としてのAI戦略
- 変化後の組織構造
- 各組織・職務で必要になる人材要件
- 社員が持つスキルや経験
- 異動に伴う制約
- 複数の配置シナリオ
これらを分断された情報としてではなく、一つの構造として扱うことで、AI戦略に対する複数の配置シナリオを比較できるようになります。

7. おわりに:AI時代に必要なのは、人を活かす配置設計
生成AIによって、業務の一部は確実に変わっていきます。
しかし、企業にとって本当に難しいのは、どの業務がAIに置き換わるかだけではなく、AIによって生まれた人的リソースを、どの業務・どのスキル・どの組織に再投資するのかです。
これらの問題を適切に考えるためには、数百人規模の異動、玉突きによる影響、部署ごとの制約、社員ごとのスキルや希望、AIによる業務変化、目指す組織構造を同時に考える必要がありますが、人事担当者や経営陣の頭の中だけでこれらを全て考え切るのは、現実的にかなり難しい領域です。
そこで私たちは、AI戦略、組織構造、人材要件、社員スキル、配置シナリオをデジタル上でつなぎ、仮想的にシミュレーションできるようにする取り組みを進めています。
目指しているのは、人事判断を自動化することではありません。人事や経営陣がより良い意思決定を行うために、判断材料を整理し、複数の配置シナリオを比較し、どの案がどの制約を満たし、どのリスクを持つのかを見えるようにすることです。
AI 時代の組織変革は、AI 導入だけでは完結しません。誰を、どこで、どう活かすのか。
この問いに答えるために、異動配置を「経験と勘」だけではなく、タスクとスキル、戦略、そしてシミュレーションに基づいて再設計する余地は大きいと考えています。
Algomatic は6月より新体制となり、採用も強化中です!ご興味を持っていただけたら、ぜひお気軽にカジュアル面談へ足を運んでいただけると嬉しいです!
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こんにちは!
Algomaticの大見川です。
Algomatic 初夏のアドベントカレンダー、9日目です。まだまだ続いていくので、他の記事もぜひ楽しみにしていてください!
前回の記事は山中さんが、HHKB と Karabiner を使った「こだわりキーマップ」を、その設計思想とあわせて紹介しています!
さて、今回はがっつり技術に踏み込んだ話というよりは、いわゆる HR テック領域の異動配置について、私が所属する組織変革本部の取り組みをご紹介します。少し長めの記事になりますが、以下の目次に沿って順番に進めていきますので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです!
- 1. 異動配置は、もともと巨大な組み合わせ問題である
- 2. 生成AIによって、最適な組織構造そのものが変わり始めている
- 3. Anthropicの研究が示す、タスク単位でAI影響を見る重要性
- 4. Japan AI Indexから考える、日本企業におけるAI影響度の見方
- 5. スキルを媒介に、人とタスクを結びつける
- 6. AI戦略から、組織構造・人材要件・配置をつなぐ
- 7. おわりに:AI時代に必要なのは、人を活かす配置設計
1. 異動配置は、もともと巨大な組み合わせ問題である
大企業の異動配置は、今までも難しい意思決定でした。
数十人から数百人規模の異動を考えるとき、単に「この人はこの部署に合いそう」という話では済みません。本人のスキル、希望、等級、勤務地、後任、部署ごとの必要人数、部門間の利害調整など、多くの制約が絡みます。
さらに、1人を動かすと元部署に穴が空き、その後任を考えると別の部署にも影響が出ます。いわゆる玉突き配置です。
たとえば、Aさんを成長領域の部署に異動させると、Aさんが抜けた部署では後任が必要になります。その後任としてBさんを動かすと、今度はBさんの元部署に穴が空く。さらにCさんを動かす必要が出る。
このように、1人の異動は複数部署に波及します。
しかも実際の大企業では、このような異動を1件ずつ考えるわけではありません。数十人から数百人規模の異動を、同じタイミングで同時に検討する必要があります。
つまり異動配置は、単純なマッチングではありません。誰を動かすかだけでなく、誰を後任にするか、どの部署の人員を維持するかなどの組織全体のバランスを考える問題です。

数学的に考えるなら、異動配置は以下のように制約の多い組み合わせ問題として捉えられます。
- 各部署の必要人数を満たす
- 必要なスキルを満たす
- 後任不在の穴を作らない
- 等級・勤務地・本人希望などの制約を満たす
- 短期の業務継続と中長期の育成を両立する
問題は、「Aさんに一番合う部署はどこか」ではありません。
Aさんを動かしたとき、組織全体として最も良い状態は何かを考えることです。
つまり、局所最適ではなく、全社最適を考える必要があります。
そして今、このもともと難しかった異動配置に、生成AIという新しい変数が加わっています。
ここで重要なのは、AIによって一部の業務が効率化されることだけではありません。より本質的には、AIによって最適な組織構造そのものが変わり始めていることです。
これまでは、ある程度決められた組織構造の中で、誰をどこに配置するかを考えればよかった。しかしAI時代には、業務の一部が効率化され、人が担うべきタスクの比重が変わり、必要なスキルも変わります。
その結果、異動配置は「固定された組織への人の割当」ではなく、変化する組織構造に対する人材再配置の問題になります。
2. 生成AIによって、最適な組織構造そのものが変わり始めている
では、生成AIによって具体的に何が変わるのでしょうか。
営業部には営業の役割があり、経理部には経理の役割があり、人事部には人事の役割がある。各部署に必要人数があり、その枠に対して誰を配置するかを考える。
もちろん、それだけでも十分に難しいですが、生成AIの登場によってより難しくなっているのは、配置先である組織構造そのものが変わり始めていることです。
AIによって、ある業務の一部は効率化されます。別の業務では、人間が担う役割の比重が変わります。さらに、AIを前提に業務プロセスそのものを再設計すれば、必要な部署や役割の形も変わります。
従来の配置問題は、既存の組織構造と各部署・職務の必要人数を前提にして、誰をどこに配置するかを考える問題でした。
一方でAI時代の配置問題では、AIによって業務や必要スキルが変わり、企業戦略に応じて組織構造そのものを再検討する必要があります。そのうえで、再検討した組織構造に対して、必要な人材を定義し、既存社員をどう再配置するかを考えることになります。
つまり、AI時代の異動配置では、次の2つを同時に考える必要があります。
- AIによる影響を踏まえた、より適切な組織構造は何か
- 再検討した組織構造に対して、誰をどこに配置するのが適切か
組織構造の再検討がないままAIを導入しても、個人の作業時間は減るかもしれません。しかし、その余力をどの組織能力の強化に使うのか、どの領域へ人材を再配置するのかが曖昧なままでは、事業成果にはつながりにくくなります。
BCGの「Strategy Matters More Than Tools」でも、AIによる時間削減が自動的に価値へ変わるわけではないことが示されています。定期的にAIを使う現場社員の多くが、節約した時間を何に使うべきかについて十分なガイダンスを受けておらず、その時間を戦略的な仕事に再投資できていないことが示されています。
この結果は、AI活用の本質的な問いを示しています。
AIで時間を削減できるかではなく、AIで生まれた人的リソースをどこに再投資するのかが重要になるということです。
AIによって生まれた時間を、より深い顧客理解に使うのか。業務プロセスの再設計に使うのか。新規事業の検証に使うのか。あるいは、別の成長領域へ人を動かすのか。
この方向性がなければ、AIは「個人を少し楽にするツール」に留まります。逆に、方向性があれば、AIは組織構造を変えるきっかけになります。
BCGは、AIツールへのアクセスとAI戦略の明確さを比較し、ツールアクセスの強さだけではなく、戦略の明確さが測定可能なインパクトと強く関係していることを示しています。

3. Anthropicの研究が示す、タスク単位でAI影響を見る重要性
AIによる影響を考慮しながら最適な組織構造を考える上で重要になるのが、職務名ではなく、職務を構成するタスクを見るという考え方です。
組織構造を見直すには、単に「営業部」「経理部」「人事部」といった部署単位で考えるだけでは不十分です。なぜなら、AIの影響は部署名や職務名に一律でかかるのではなく、その中に含まれる個別のタスクごとに異なるからです。
Anthropicの Labor market impacts of AI: A new measure and early evidenceでは、AIが労働市場に与える影響を測るために、職業単位ではなく、その職業を構成するタスク単位でAIによる影響度(AI exposure)を捉える枠組みが示されています。
この研究では、O*NETという米国の職業・タスク情報に関するデータと、Anthropic Economic Index上の利用データ、さらにタスクごとのAI exposure推定を組み合わせることで、AIがどのようなタスクに影響し、それが職業全体にどの程度関係するのかを分析しています。
この考え方は、AI時代の組織構造を考えるうえでも重要です。
たとえば同じ営業職でも、顧客リスト作成、提案資料作成、商談、契約交渉、社内調整では、AIの影響度が異なります。
もし職種単位で「営業職はAI影響が高い / 低い」と判断してしまうと、かなり粗い意思決定になります。
重要なのは、職務名ではなく、その職務を構成するタスクの内訳を見ることです。
- どのタスクはAIによって効率化されやすいのか
- どのタスクは引き続き人が担う必要があるのか
- どのタスクの比重が下がり、どのタスクの重要性が相対的に上がるのか
- その変化によって、部署や職務の役割分担をどう見直すべきか
このようにタスク単位で見ることで、AI導入後の組織構造をより具体的に考えられるようになります。
AI影響度を見る目的は、単に「どの仕事がAIに置き換わるか」を知ることではなく、AIによってタスク構成がどう変わり、その結果として、どのような組織構造や役割分担が望ましいのかを考えることにあります。

ただし、Anthropicの研究は主に海外の職業・タスク情報やAI利用データをもとにしたものです。そのため、日本企業の異動配置に活用するには、日本固有の産業構造や雇用慣行を踏まえて読み替える必要があります。
そこで次に、日本におけるAI影響度の見方として、Japan AI Indexの取り組みを見ていきます
4. Japan AI Indexから考える、日本企業におけるAI影響度の見方
Anthropicの研究のように、職業ではなくタスクに着目する発想は、AI時代の人材配置を考えるうえで大きな示唆があります。
一方で、それをそのまま日本企業の異動配置に当てはめられるかというと、そう単純ではありません。
理由は主に3つあります。
1つ目は、O*NETが米国の職業・タスク情報を前提にしていることです。
Anthropicの分析は、O*NETに含まれる米国の職業・タスク情報を基盤にしています。O*NETは非常に有用なデータ体系ですが、米国の職業分類や業務内容を前提にしているため、日本企業の社内職務にそのまま適用できるとは限りません。
そのため、日本企業で活用するには、自社の職務・業務実態に合わせた読み替えが必要になります。
2つ目は、雇用調整のメカニズムの違いです。
Anthropicの労働市場影響分析は、労働市場全体で「どの職業に影響が出るか」を見るうえでは自然なアプローチです。
しかし、日本の大企業における異動配置の問題は、単に労働市場で職業が増える・減るという話ではありません。
むしろ実務上の問いは、既存社員を社内のどこへ動かすのかです。
日本企業では、AIで特定業務が効率化されたからといって、すぐに外部労働市場で人材を入れ替えるというより、既存社員を別部署へ配置転換したり、リスキリングしたり、成長領域へシフトしたりする判断が重要になります。
3つ目は、AI利用実態の違いです。
Anthropic Economic Indexは、実際のClaude利用データを使っている点に価値があります。一方で、実際のAI利用は国、業界、企業規模、セキュリティポリシー、言語、業務慣行によって大きく変わります。
そこで重要になるのが、Japan AI Indexのような取り組みです。
Japan AI Indexは、日本における生成AIの社会的インパクトを継続的に観測・分析するための基盤として発表されたものです。LLM利用に関する統計データと、日本国内の経済活動・雇用・教育に関する公的統計・調査データを統合し、業界・職種・タスク単位でAIの影響を可視化しようとしています。
これは、海外の研究をそのまま日本企業に適用するのではなく、日本固有の産業構造や雇用慣行を踏まえてAI影響を捉えるための重要な取り組みです。
ただし、Japan AI Indexも企業内の異動配置をそのまま解くものではありません。企業が実際に活用するには、さらに自社の職務、タスク、スキル、人材データに落とし込む必要があります。

5. スキルを媒介に、人とタスクを結びつける
ここまでの話を企業内の異動配置に落とし込むときに重要になるのが、スキルを媒介にして人とタスクを結びつける、スキルベースという考え方です。
AIの影響は、部署名や職務名ではなく、タスクに対して起きます。
そのため、AI時代の人材配置では、単に「この人は営業職だから営業系部署へ」「この人は経理職だから経理系部署へ」と考えるだけでは不十分になります。
見るべきなのは、次の3つの関係です。
- 業務は、どのようなタスクで構成されているのか
- それぞれのタスクには、どのようなスキルが必要なのか
- 社員は、どのようなスキルを持っているのか
つまり、タスクと人を直接結びつけるのではなく、タスクが要求するスキルと人が持つスキルを照合することで、配置可能性を考えるということです。
たとえば、同じ「営業職」でも、実際の仕事の中身は人によって違います。
新規顧客開拓が中心の営業では、企業リスト作成、情報収集、初回提案資料の作成などの比重が高いかもしれません。一方で、既存大口顧客の深耕が中心の営業では、顧客理解、関係構築、複数部門の利害調整、契約交渉の比重が高いかもしれません。
このとき、「営業職」というラベルだけを見ても、AI影響度も、今後必要になるスキルも判断できません。
しかし、タスクに分解すると見方が変わります。
- 情報収集には、調査力、仮説構築、業界理解が必要になる
- 提案作成には、構成力、ストーリーテリング、顧客理解が必要になる
- 部門間調整には、ステークホルダー調整、合意形成、プロジェクト推進が必要になる
- 契約交渉には、論点整理、リスク判断、合意形成が必要になる
このように整理すると、社員を「現在の職務名」ではなく、「どのタスクを担えるスキルを持っている人か」として捉えられるようになります。
たとえば、Aさんが営業部に所属していたとしても、Aさんの強みが顧客理解、課題発見、提案設計、社内調整にあるなら、営業企画だけでなく、事業開発、カスタマーサクセス、導入コンサルティング、変革推進部門でも活躍できる可能性があります。
これは、異動候補を広げるうえで重要です。
従来の職務ベースの配置では、異動先は現在の職種に近い部署に閉じやすくなります。
一方で、スキルを媒介にすると、職務名は違っていても、実は近いタスクを担える人材を見つけやすくなります。
つまり、スキルベースの価値は、単に「社員のスキル一覧を作ること」ではありません。
タスクが要求するスキルと、人が持つスキルを接続することで、職務名だけでは見えなかった配置可能性を発見できることにあります。
さらにAIの影響を重ねると、この考え方はより重要になります。
AIによって、情報収集、初期調査、定型レポート作成、資料のたたき台作成のようなタスクの比重は下がるかもしれません。
一方で、問いの設計、意思決定、顧客・現場理解、部門間調整、責任を伴う判断のようなタスクの重要性は相対的に高まる可能性があります。
そのときに必要なのは、「どの職務がAIに置き換わるか」を見ることではありません。
AIによって変化したタスク構成に対して、どのスキルを持つ人をどこに配置すべきかを見ることです。

BCGの調査でも、多くの回答者が今後大きなアップスキリングが必要だと考える一方で、十分にトレーニングされていると感じる人は限られていることが示されています。
これは、AIによって求められるスキルが変わり始めている一方で、企業側の育成や配置の仕組みが、その変化に追いついていないことを示唆しています。
だからこそ、AI時代の人材配置では、職務名だけで人を見るのではなく、タスクとスキルを軸に、人と業務を結びつける必要があります。
6. AI戦略から、組織構造・人材要件・配置をつなぐ
ここまで見てきたように、AI時代の異動配置では、単に「AI影響度を測る」だけでは不十分です。
AI影響度を測ることで、どの業務が変わりそうかは見えてきます。しかし、それだけでは、企業としてどの組織構造を目指すのか、そのためにどのような人材が必要になるのか、既存社員をどこに配置すべきなのかまでは決まりません。
重要なのは、AI影響度を単体で見ることではなく、企業としてのAI戦略から、組織構造、人材要件、配置決定までをつなげて考えることです。
まず、AIを使ってどの業務を効率化するのか、どの業務プロセスを再設計するのか、どの事業領域に人的リソースを再投資するのかを明確にする必要があります。
その戦略に応じて、組織構造は変わります。既存業務の一部をAIで効率化するだけなら変化は限定的かもしれません。しかし、AIを前提に業務プロセスそのものを再設計するなら、部署間の役割分担や必要な職務も変わっていきます。
組織構造が変わると、必要な人材も変わります。たとえば、問いを設計する力、AIの出力を評価する力、複数部門を巻き込む力、顧客や現場を深く理解する力、責任を持って意思決定する力の重要性は高まる可能性があります。
つまり、AI時代の配置決定は、現在の組織に対して誰をどこに置くかではなく、AI戦略によって変化する組織に対して誰をどこに置くかを考える問題になります。
このとき必要なのは、次のような情報をつなげて見ることです。
- 企業としてのAI戦略
- 変化後の組織構造
- 各組織・職務で必要になる人材要件
- 社員が持つスキルや経験
- 異動に伴う制約
- 複数の配置シナリオ
これらを分断された情報としてではなく、一つの構造として扱うことで、AI戦略に対する複数の配置シナリオを比較できるようになります。

7. おわりに:AI時代に必要なのは、人を活かす配置設計
生成AIによって、業務の一部は確実に変わっていきます。
しかし、企業にとって本当に難しいのは、どの業務がAIに置き換わるかだけではなく、AIによって生まれた人的リソースを、どの業務・どのスキル・どの組織に再投資するのかです。
これらの問題を適切に考えるためには、数百人規模の異動、玉突きによる影響、部署ごとの制約、社員ごとのスキルや希望、AIによる業務変化、目指す組織構造を同時に考える必要がありますが、人事担当者や経営陣の頭の中だけでこれらを全て考え切るのは、現実的にかなり難しい領域です。
そこで私たちは、AI戦略、組織構造、人材要件、社員スキル、配置シナリオをデジタル上でつなぎ、仮想的にシミュレーションできるようにする取り組みを進めています。
目指しているのは、人事判断を自動化することではありません。人事や経営陣がより良い意思決定を行うために、判断材料を整理し、複数の配置シナリオを比較し、どの案がどの制約を満たし、どのリスクを持つのかを見えるようにすることです。
AI時代の組織変革は、AI導入だけでは完結しません。誰を、どこで、どう活かすのか。
この問いに答えるために、異動配置を「経験と勘」だけではなく、タスクとスキル、戦略、そしてシミュレーションに基づいて再設計する余地は大きいと考えています。
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