エクサウィザーズが SSII2026 に参加報告
エクサウィザーズの CTO 室堺氏による SSII2026 参加報告において、生成 AI が非言語情報(暗黙知や CAD データ)をどう扱うかという実務的な課題解決への取り組みが紹介された。
キーポイント
SSII2026 の規模と特徴
812 名の参加者、139 件の発表が行われた国内有数の画像センシングシンポジウムであり、学術研究と産業応用の両方が密接に交わる場として機能している。
生成 AI と非言語情報の扱い
エクサウィザーズは、言語化できない暗黙知のデータ化や CAD/3D データの LLM 対応という、産業界における生成 AI の実装課題に焦点を当てた講演を行った。
産業応用と現場感の重視
本イベントでは先進的な基礎研究だけでなく、実データや実課題を起点とした発表が多く、アカデミアと産業現場の垣根が低いことが特徴として強調された。
重要な引用
「言語にならない情報」に挑む生成 AI システム開発の現在地
ベテラン作業員が経験的に行っている業務を、動作解析などで捉えて構造化・グラフ化し、AI エージェントが「解析可能な状態」にする取り組み
産業応用を強く意識した発表が多いこと
影響分析・編集コメントを表示
影響分析
この記事は、生成 AI が単なるテキスト処理から、現場の暗黙知や複雑な設計データ(CAD/3D)といった非構造化・非言語情報へと領域を拡大している重要な転換点を示しています。エクサウィザーズの事例は、AI エージェントが実社会で価値を発揮するためには、言語化できないノウハウをどう定量化し、システムに組み込むかが鍵となるという現実的な課題解決の方向性を提示しており、産業 AI 開発者にとって極めて示唆に富む内容です。
編集コメント
生成 AI の応用範囲がテキストから物理世界や設計データへと拡大する潮流を、具体的な実装事例(暗黙知の構造化など)を通じて捉え直すことができる貴重な報告です。技術的な深みだけでなく、現場の課題とどう向き合うかという視点が強く感じられる記事です。
こんにちは!**
株式会社エクサウィザーズ CTO 室の堺です。
2026年6月10日(水)〜12日(金)の3日間、画像センシング技術に関する国内有数のシンポジウム「第32回 画像センシングシンポジウム(SSII2026)」が、パシフィコ横浜 アネックスホールで開催されました。本記事では、現地参加して感じた会場の雰囲気や、当社の活動、聴講したセッションの内容について紹介いたします。
SSII2026とは
SSII(Symposium on Sensing via Image Information)は、画像センシング技術を軸として、機械学習・パターン認識・人工知能(AI)などの分野に携わる研究者・技術者が一堂に会するシンポジウムです。主催は画像センシング技術研究会(会長:中部大学 藤吉弘亘 教授)で、先進的な基礎研究だけでなく、実課題への取り組みや実利用のノウハウまで幅広く扱う産学が交わる場として長年運営されています。
今年の参加登録者数は812名と非常に盛況でした。閉会式で報告されたプログラムの実績は、講演16件、スポットライト発表21件、インタラクティブ(ポスター)発表102件、特別企画6件**、スポンサーは21社とのことで、規模・熱量ともに大きな会でした。また、同じパシフィコ横浜の展示ホールでは「画像センシング展」が併催されており、学術と産業展示を行き来できるのもSSIIならではの魅力です。
なお、次回のSSII2027は2027年6月9日〜11日に、引き続きパシフィコ横浜で開催予定とアナウンスされています。
会場・ポスターセッションの雰囲気
会場は3日間を通して熱気にあふれていました。特に印象的だったのがインタラクティブセッション(ポスターセッション)で、どのポスターの前にも人だかりができており大盛況でした。発表者と聴講者の距離が近く、定量評価だけでは見えてこない現場での使いどころや試行錯誤の裏側まで踏み込んだ議論が各所で交わされているのが、SSIIらしい光景です。
また、口頭のスポットライトセッションとポスターがセットになっている構成のため、スポットライトで概要を聞いて、気になった発表をポスターでじっくり議論するという回遊がしやすく、限られた時間でも効率よく情報収集ができました。
会場内の企業ブースは日替わりで出展企業が入れ替わる形式になっており、毎日足を運んでも新しい出会いがあるのが特徴的でした。3日間通うモチベーションにもなりますし、限られたスペースでも多くの企業と接点を持てる良い仕組みだと感じました。
そしてSSII全体を通して強く感じたのが、産業応用を強く意識した発表が多いことです。先進的な基礎研究ももちろんありますが、実データ・実課題を起点にした発表や、実利用を想定したシステム・ノウハウの共有が多く、案件を進めるうえで参考になりそうな発表に何度も出会いました。アカデミアの最先端と産業の現場感が同じ会場に共存しているのは、産学が交わる場を掲げるSSIIならではだと思います。
当社の活動
加藤がオーガナイズドセッション「産業界における生成AIの利活用」に登壇
当社の加藤が、オーガナイズドセッション「産業界における生成AIの利活用」にて、「『言語にならない情報』に挑む生成AIシステム開発の現在地」と題した招待講演を行いました。
講演では、業務AIエージェント開発における「非言語情報」の扱いを、次の2つの軸で整理しました。
- 言語化できない暗黙知を、どう理解しデータ化するか
ベテラン作業員が経験的に行っている業務を、動作解析などで捉えて構造化・グラフ化し、AIエージェントが「解析可能な状態」にする取り組みです。実際のログとSOP(標準作業手順書)を突き合わせて、あるべき手順と実態の乖離を発見する記録型・自律型のエージェントを、銀行や製造業向けに提供している事例を紹介しました。
- CAD・3Dデータなどの非言語データを、言語モデルが扱いやすい形にどう整えるか
点群・CAD・メッシュといったデータ形式の使い分けや、表・地図・テキストが混在した図面をメタデータ化して検索可能にしておくことで、AIエージェントが業務知識を持った形で情報へアクセスできるようにする、という実践的な設計指針を示しました。
また、ベースLLMの推論能力が高まった結果、競争の焦点が「どのツール・データを、どう適切に接続しルーティングするか」に移っているという現状認識や、「AIは間違える」ことを前提に初日から使えて即座に修正できるシステムを設計すること、AIへのアクセス権限管理・メモリのブラックボックス化といった実装上の課題にも踏み込んだ内容で、質疑では暗黙知をデータ化する際の判断基準についても議論が交わされました。
同セッションでは、キャディ株式会社様による「製造業ドメインにおけるVLMの現在地」、株式会社LayerX様による「バクラクの Ambient Agent の裏側」の講演もあり、生成AIの産業実装というテーマを三者三様の角度から掘り下げる、非常に濃いセッションになりました(両講演の内容は後述の聴講メモでも触れます)。
学生との懇親会
会期中には、SSIIに参加していた学生の皆さんとの懇親会も行いました。セッションの合間だけでは話しきれない研究の話はもちろん、就職やキャリアの話、当社の取り組みについてもざっくばらんに語り合い、交流を深めることができました。学会の場で最先端の研究に触れられるだけでなく、次世代を担う学生の皆さんと直接つながれるのも、現地参加ならではの醍醐味です。
聴講メモ
ここからは、聴講したセッションの内容について紹介いたします。
チュートリアル
「可視光メタサーフェス入門 〜イメージングのためのメタマテリアル設計と、ゼロから作るメタサーフェス〜」
メタサーフェスとは、光の波長より小さい微細な構造物(メタ原子)を二次元に並べることで光を制御する光学素子で、凸レンズや凹レンズと同じような機能をほとんど厚みを持たずに実装できるのが特徴です。厚みは約1μmと非常に薄く、小型化に加えて複数のレンズの機能を1枚に集約する多機能化も可能とのことで、スマホなどのカメラレンズの小型化にもつながっていくのではと期待が膨らみました。
さらに面白かったのが光演算への応用です。メタサーフェスで畳み込み演算を行うことでMNISTを解けるものもすでにあり、理論上は光の速度で推論が終わることになります。電力もほぼ消費しないため、夢のある話だと感じました。
講演の後半では、共用設備を活用した自作の方法(設計から電子線描画・エッチングによる製造まで)もステップバイステップで解説されており、専用設備を持たない研究者でも手を出せるとのこと。話を聞いていて、自分で作ってみるのも面白そうだと思えるチュートリアルでした。
オーガナイズドセッション
OS1「計算機インフラどうしてる? 〜設計から運用と管理の実際〜」
AI/フィジカルAIの基盤となる計算機インフラを「設計・構築・運用する側」の視点から論じるセッションです。
聴講する中で個人的に一番惹かれたのが、機械学習基盤における Slurm or Kubernetes という論点です。Kubernetesは社内でも資格取得を目指しているメンバーが多く馴染みのある技術だったこともあり、特に興味深く聞きました。
- Slurmは小規模なクラスタの管理に向いており、共有ファイルシステムと組み合わせれば少人数・片手間でも運用できる。
- Kubernetesは運用・管理の難易度が高い一方、カスタムリソースやオペレーターによる機能拡張のしやすさや、クラスタのコンポーネント管理・サービスディスカバリといった強みがあり、大規模・多用途な基盤に向いている。
という整理で、機械学習に向いた計算基盤は目的によるという結論はシンプルながら説得力がありました。
また、大阪大学からは9大学・2研究機関共同運用の学術クラウド基盤「mdx II」の設計知見も共有されました。こちらでは、Kubernetesを使いこなせるユーザーがまだ多くないことを踏まえて、あえてKubernetesではなくVMベース(OpenStack)の独自基盤を選定したとのことで、ユーザー層に合わせて技術を選ぶ判断プロセスそのものが勉強になりました。
期待以上に実運用の知見が詰まっており、当社の基盤運用を考えるうえでも持ち帰りの多いセッションでした。
当社の加藤が登壇したセッション(前述)です。続く2件の招待講演も、それぞれのドメインで生成AIをPoCから実運用へ持っていく難しさに向き合う内容でした。
キャディ株式会社様の「製造業ドメインにおけるVLMの現在地」では、図面・3D CADに込められた設計意図や暗黙知を、最先端のVLMがどこまで理解できるかの検証結果が報告されました。要素認識は概ね実用水準に達しつつある一方、空間把握はモデル間の性能差が大きく、性能の安定性に課題が残るという評価は、実務でVLMを扱う際の肌感覚とも一致します。モデルの性能向上トレンドを見極めながら自分たちがやるべき部分を切り分けていく、という姿勢が印象的でした。
株式会社LayerX様の「バクラクの Ambient Agent の裏側」の核となる Ambient Agent は、人がチャットで指示するのではなく、メール受信やカレンダー登録などのイベントを起点に、業務ごとに特化したエージェントが自律的に仕事を進め、人間は確認・承認だけを行うという設計です。運用からの学びとして、タスクを細かく分割する設計から、その時点の最高のモデルに全体をまるっと任せ、難しい部分だけを切り出す方針への転換が語られ、泥臭い運用・改善を回し続けることが完全自動化への一番の近道というメッセージが強く印象に残りました。
特別講演
CAD×AIの研究動向と製造業への実適用を扱う講演です。
まず現状として意外だったのが、CAD/CAMの導入率自体は高いにもかかわらず、図面業界ではいまだに紙(2D図面)でのやり取りが多く、3Dがなかなか普及していないということです。事業者間では2D図面が共通言語になっており、3Dモデルだけでは製造指示が完結しないのが実情だそうです。この背景には、図面には寸法だけでなく、どう作るかという加工情報が込められている、という事情があります。そこで打ち手の一つとなるのが PMI(Product Manufacturing Information) で、幾何公差などの加工情報を3次元モデルに直接付与する仕組みです。図面が担ってきた情報を3D側に載せていく方向性ですが、これもまだ普及の途上とのことでした。
では、この領域にAI・生成モデルを持ち込めばよいかというと、そう簡単ではありません。製造業のCADとして使うには、ウォータータイトな(隙間なく閉じた)3Dモデルとして復元・生成できることや、面と面の間の幾何拘束を満たすことが必須で、点群やメッシュを出力する一般的な3D生成とは要求水準が大きく異なります。ここで登場するのが B-rep(Boundary Representation) のような、面・エッジ・頂点の関係で立体を厳密に表現する形式です。しかし、従来の3D生成研究では点群やポリゴンメッシュなどを対象とするものが多く、幾何情報と位相構造を併せ持つB-repを直接扱う研究は、まだ発展途上とのことでした。
個人的にB-repをはじめとする幾何拘束を扱うモデルはあまり知らなかったため非常に良い勉強になったのと同時に、産業側の必要性に対して研究が追いついていない、面白いフロンティアが残っている領域だと感じました。
まとめ
SSII2026に現地参加した報告をさせていただきました。
今年のSSIIで最も強く印象に残ったのは、案件に有効に活かせそうと思える発表の多さです。VLMによる図面理解はどこまで実用水準に達しているのか(OS2)、AIエージェントを本番運用に載せるにはどんな設計方針が有効か(OS2)、機械学習基盤はどんな観点で技術選定すべきか(OS1)など、当社が顧客案件で日々直面している問いへの答えやヒントが、実データ・実課題に裏打ちされた形で数多く共有されていました。しかも、きれいな成功事例だけでなく「どこでつまずき、何を根拠にどう判断したか」という試行錯誤の過程まで踏み込んで語られる発表が多く、聴いたその足で自分たちのプロジェクトに持ち帰り活かせる知見ばかりでした。実利用のノウハウまで扱う産学が交わる場というSSIIの掲げる姿を、まさに体感した3日間でした。
また、当社の加藤がオーガナイズドセッションに登壇し、業務AIエージェント開発の現在地を産業界・学術界の皆さまと議論できたこと、そして学生の皆さんとの懇親会を通じて次世代を担う方々と直接つながれたことも大きな収穫でした。
次回のSSII2027も引き続きパシフィコ横浜での開催が予定されています。次回もまた、画像センシング技術と社会実装の接点について議論できることを楽しみにしています。
今回得られた知見とネットワークを、引き続き社会実装の加速につなげていきたいと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました!
エクサウィザーズでは、長期のエンジニアインターンを募集しております!
- 先端技術をどう実社会の課題解決につなげられるかを真剣に考えていきたい方
- 様々なクラウドサービスを活用しながらインフラや運用を考えたい方
- LLM、画像、3次元復元、インフラなど様々なスペシャリストに囲まれて仕事をしていきたい方
長期インターンのご応募はこちらよりご連絡ください!
参考
- SSII2026の概要 | 第32回画像センシングシンポジウム(Confit)
- 画像センシングシンポジウム(@ssii)on Speaker Deck(基調講演・OS・チュートリアルの登壇資料が公開されています)
原文を表示
こんにちは!**
株式会社エクサウィザーズ CTO 室の堺です。
2026年6月10日(水)〜12日(金)の3日間、画像センシング技術に関する国内有数のシンポジウム「第32回 画像センシングシンポジウム(SSII2026)」が、パシフィコ横浜 アネックスホールで開催されました。本記事では、現地参加して感じた会場の雰囲気や、当社の活動、聴講したセッションの内容について紹介いたします。
SSII2026とは
SSII(Symposium on Sensing via Image Information)は、画像センシング技術を軸として、機械学習・パターン認識・人工知能(AI)などの分野に携わる研究者・技術者が一堂に会するシンポジウムです。主催は画像センシング技術研究会(会長:中部大学 藤吉弘亘 教授)で、先進的な基礎研究だけでなく、実課題への取り組みや実利用のノウハウまで幅広く扱う産学が交わる場として長年運営されています。
今年の参加登録者数は812名と非常に盛況でした。閉会式で報告されたプログラムの実績は、講演16件、スポットライト発表21件、インタラクティブ(ポスター)発表102件、特別企画6件**、スポンサーは21社とのことで、規模・熱量ともに大きな会でした。また、同じパシフィコ横浜の展示ホールでは「画像センシング展」が併催されており、学術と産業展示を行き来できるのもSSIIならではの魅力です。
なお、次回のSSII2027は2027年6月9日〜11日に、引き続きパシフィコ横浜で開催予定とアナウンスされています。
会場・ポスターセッションの雰囲気
会場は3日間を通して熱気にあふれていました。特に印象的だったのがインタラクティブセッション(ポスターセッション)で、どのポスターの前にも人だかりができており大盛況でした。発表者と聴講者の距離が近く、定量評価だけでは見えてこない現場での使いどころや試行錯誤の裏側まで踏み込んだ議論が各所で交わされているのが、SSIIらしい光景です。
また、口頭のスポットライトセッションとポスターがセットになっている構成のため、スポットライトで概要を聞いて、気になった発表をポスターでじっくり議論するという回遊がしやすく、限られた時間でも効率よく情報収集ができました。
会場内の企業ブースは日替わりで出展企業が入れ替わる形式になっており、毎日足を運んでも新しい出会いがあるのが特徴的でした。3日間通うモチベーションにもなりますし、限られたスペースでも多くの企業と接点を持てる良い仕組みだと感じました。
そしてSSII全体を通して強く感じたのが、産業応用を強く意識した発表が多いことです。先進的な基礎研究ももちろんありますが、実データ・実課題を起点にした発表や、実利用を想定したシステム・ノウハウの共有が多く、案件を進めるうえで参考になりそうな発表に何度も出会いました。アカデミアの最先端と産業の現場感が同じ会場に共存しているのは、産学が交わる場を掲げるSSIIならではだと思います。
当社の活動
加藤がオーガナイズドセッション「産業界における生成AIの利活用」に登壇
当社の加藤が、オーガナイズドセッション「産業界における生成AIの利活用」にて、「『言語にならない情報』に挑む生成AIシステム開発の現在地」と題した招待講演を行いました。
講演では、業務AIエージェント開発における「非言語情報」の扱いを、次の2つの軸で整理しました。
- 言語化できない暗黙知を、どう理解しデータ化するか
ベテラン作業員が経験的に行っている業務を、動作解析などで捉えて構造化・グラフ化し、AIエージェントが「解析可能な状態」にする取り組みです。実際のログとSOP(標準作業手順書)を突き合わせて、あるべき手順と実態の乖離を発見する記録型・自律型のエージェントを、銀行や製造業向けに提供している事例を紹介しました。
- CAD・3Dデータなどの非言語データを、言語モデルが扱いやすい形にどう整えるか
点群・CAD・メッシュといったデータ形式の使い分けや、表・地図・テキストが混在した図面をメタデータ化して検索可能にしておくことで、AIエージェントが業務知識を持った形で情報へアクセスできるようにする、という実践的な設計指針を示しました。
また、ベースLLMの推論能力が高まった結果、競争の焦点が「どのツール・データを、どう適切に接続しルーティングするか」に移っているという現状認識や、「AIは間違える」ことを前提に初日から使えて即座に修正できるシステムを設計すること、AIへのアクセス権限管理・メモリのブラックボックス化といった実装上の課題にも踏み込んだ内容で、質疑では暗黙知をデータ化する際の判断基準についても議論が交わされました。
同セッションでは、キャディ株式会社様による「製造業ドメインにおけるVLMの現在地」、株式会社LayerX様による「バクラクの Ambient Agent の裏側」の講演もあり、生成AIの産業実装というテーマを三者三様の角度から掘り下げる、非常に濃いセッションになりました(両講演の内容は後述の聴講メモでも触れます)。
学生との懇親会
会期中には、SSIIに参加していた学生の皆さんとの懇親会も行いました。セッションの合間だけでは話しきれない研究の話はもちろん、就職やキャリアの話、当社の取り組みについてもざっくばらんに語り合い、交流を深めることができました。学会の場で最先端の研究に触れられるだけでなく、次世代を担う学生の皆さんと直接つながれるのも、現地参加ならではの醍醐味です。
聴講メモ
ここからは、聴講したセッションの内容について紹介いたします。
チュートリアル
「可視光メタサーフェス入門 〜イメージングのためのメタマテリアル設計と、ゼロから作るメタサーフェス〜」
メタサーフェスとは、光の波長より小さい微細な構造物(メタ原子)を二次元に並べることで光を制御する光学素子で、凸レンズや凹レンズと同じような機能をほとんど厚みを持たずに実装できるのが特徴です。厚みは約1μmと非常に薄く、小型化に加えて複数のレンズの機能を1枚に集約する多機能化も可能とのことで、スマホなどのカメラレンズの小型化にもつながっていくのではと期待が膨らみました。
さらに面白かったのが光演算への応用です。メタサーフェスで畳み込み演算を行うことでMNISTを解けるものもすでにあり、理論上は光の速度で推論が終わることになります。電力もほぼ消費しないため、夢のある話だと感じました。
講演の後半では、共用設備を活用した自作の方法(設計から電子線描画・エッチングによる製造まで)もステップバイステップで解説されており、専用設備を持たない研究者でも手を出せるとのこと。話を聞いていて、自分で作ってみるのも面白そうだと思えるチュートリアルでした。
オーガナイズドセッション
OS1「計算機インフラどうしてる? 〜設計から運用と管理の実際〜」
AI/フィジカルAIの基盤となる計算機インフラを「設計・構築・運用する側」の視点から論じるセッションです。
聴講する中で個人的に一番惹かれたのが、機械学習基盤における Slurm or Kubernetes という論点です。Kubernetesは社内でも資格取得を目指しているメンバーが多く馴染みのある技術だったこともあり、特に興味深く聞きました。
- Slurmは小規模なクラスタの管理に向いており、共有ファイルシステムと組み合わせれば少人数・片手間でも運用できる。
- Kubernetesは運用・管理の難易度が高い一方、カスタムリソースやオペレーターによる機能拡張のしやすさや、クラスタのコンポーネント管理・サービスディスカバリといった強みがあり、大規模・多用途な基盤に向いている。
という整理で、機械学習に向いた計算基盤は目的によるという結論はシンプルながら説得力がありました。
また、大阪大学からは9大学・2研究機関共同運用の学術クラウド基盤「mdx II」の設計知見も共有されました。こちらでは、Kubernetesを使いこなせるユーザーがまだ多くないことを踏まえて、あえてKubernetesではなくVMベース(OpenStack)の独自基盤を選定したとのことで、ユーザー層に合わせて技術を選ぶ判断プロセスそのものが勉強になりました。
期待以上に実運用の知見が詰まっており、当社の基盤運用を考えるうえでも持ち帰りの多いセッションでした。
当社の加藤が登壇したセッション(前述)です。続く2件の招待講演も、それぞれのドメインで生成AIをPoCから実運用へ持っていく難しさに向き合う内容でした。
キャディ株式会社様の「製造業ドメインにおけるVLMの現在地」では、図面・3D CADに込められた設計意図や暗黙知を、最先端のVLMがどこまで理解できるかの検証結果が報告されました。要素認識は概ね実用水準に達しつつある一方、空間把握はモデル間の性能差が大きく、性能の安定性に課題が残るという評価は、実務でVLMを扱う際の肌感覚とも一致します。モデルの性能向上トレンドを見極めながら自分たちがやるべき部分を切り分けていく、という姿勢が印象的でした。
株式会社LayerX様の「バクラクの Ambient Agent の裏側」の核となる Ambient Agent は、人がチャットで指示するのではなく、メール受信やカレンダー登録などのイベントを起点に、業務ごとに特化したエージェントが自律的に仕事を進め、人間は確認・承認だけを行うという設計です。運用からの学びとして、タスクを細かく分割する設計から、その時点の最高のモデルに全体をまるっと任せ、難しい部分だけを切り出す方針への転換が語られ、泥臭い運用・改善を回し続けることが完全自動化への一番の近道というメッセージが強く印象に残りました。
特別講演
CAD×AIの研究動向と製造業への実適用を扱う講演です。
まず現状として意外だったのが、CAD/CAMの導入率自体は高いにもかかわらず、図面業界ではいまだに紙(2D図面)でのやり取りが多く、3Dがなかなか普及していないということです。事業者間では2D図面が共通言語になっており、3Dモデルだけでは製造指示が完結しないのが実情だそうです。この背景には、図面には寸法だけでなく、どう作るかという加工情報が込められている、という事情があります。そこで打ち手の一つとなるのが PMI(Product Manufacturing Information) で、幾何公差などの加工情報を3次元モデルに直接付与する仕組みです。図面が担ってきた情報を3D側に載せていく方向性ですが、これもまだ普及の途上とのことでした。
では、この領域にAI・生成モデルを持ち込めばよいかというと、そう簡単ではありません。製造業のCADとして使うには、ウォータータイトな(隙間なく閉じた)3Dモデルとして復元・生成できることや、面と面の間の幾何拘束を満たすことが必須で、点群やメッシュを出力する一般的な3D生成とは要求水準が大きく異なります。ここで登場するのが B-rep(Boundary Representation) のような、面・エッジ・頂点の関係で立体を厳密に表現する形式です。しかし、従来の3D生成研究では点群やポリゴンメッシュなどを対象とするものが多く、幾何情報と位相構造を併せ持つB-repを直接扱う研究は、まだ発展途上とのことでした。
個人的にB-repをはじめとする幾何拘束を扱うモデルはあまり知らなかったため非常に良い勉強になったのと同時に、産業側の必要性に対して研究が追いついていない、面白いフロンティアが残っている領域だと感じました。
まとめ
SSII2026に現地参加した報告をさせていただきました。
今年のSSIIで最も強く印象に残ったのは、案件に有効に活かせそうと思える発表の多さです。VLMによる図面理解はどこまで実用水準に達しているのか(OS2)、AIエージェントを本番運用に載せるにはどんな設計方針が有効か(OS2)、機械学習基盤はどんな観点で技術選定すべきか(OS1)など、当社が顧客案件で日々直面している問いへの答えやヒントが、実データ・実課題に裏打ちされた形で数多く共有されていました。しかも、きれいな成功事例だけでなく「どこでつまずき、何を根拠にどう判断したか」という試行錯誤の過程まで踏み込んで語られる発表が多く、聴いたその足で自分たちのプロジェクトに持ち帰り活かせる知見ばかりでした。実利用のノウハウまで扱う産学が交わる場というSSIIの掲げる姿を、まさに体感した3日間でした。
また、当社の加藤がオーガナイズドセッションに登壇し、業務AIエージェント開発の現在地を産業界・学術界の皆さまと議論できたこと、そして学生の皆さんとの懇親会を通じて次世代を担う方々と直接つながれたことも大きな収穫でした。
次回のSSII2027も引き続きパシフィコ横浜での開催が予定されています。次回もまた、画像センシング技術と社会実装の接点について議論できることを楽しみにしています。
今回得られた知見とネットワークを、引き続き社会実装の加速につなげていきたいと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました!
エクサウィザーズでは、長期のエンジニアインターンを募集しております!
- 先端技術をどう実社会の課題解決につなげられるかを真剣に考えていきたい方
- 様々なクラウドサービスを活用しながらインフラや運用を考えたい方
- LLM、画像、3次元復元、インフラなど様々なスペシャリストに囲まれて仕事をしていきたい方
長期インターンのご応募はこちらよりご連絡ください!
参考
- SSII2026の概要 | 第32回画像センシングシンポジウム(Confit)
- 画像センシングシンポジウム(@ssii)on Speaker Deck(基調講演・OS・チュートリアルの登壇資料が公開されています)
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