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全メモリシステムを研究した教訓 — シロック・ケマニ氏
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まず要点
ChatGPT と Claude のメモリシステム進化を比較し、統一されたアーキテクチャの欠如と個人 AI における文脈統合の課題を指摘する。
ChatGPT と Claude のメモリシステム徹底比較:なぜ「同じ」に見えるのか、そしてどこが違うのか
過去 1 年間にわたり主要な AI プロダクトのメモリシステムを逆解析した経験を持つシロック・ケマニ氏は、ChatGPT と Claude が異なるアプローチから出発しながらも、現在は「ランニングプロファイル」という共通のアーキテクチャへと収束している現状を明らかにしました。しかし、その実装の詳細やユーザー管理の仕組みには依然として決定的な違いがあり、それが製品体験に大きな影響を与えています。
メモリシステムの進化:2 つの異なる道筋が交差する
AI のメモリシステムは、単なる「記憶」ではなく、コンシューマー向け AI アプリケーションにおけるパーソナライゼーションの中核を担う概念です。シロック氏によると、業界全体でこの用語が多義的に使われがちですが、ここではユーザーとの継続的な対話において重要な情報を保持・活用する仕組みを指します。
ChatGPT の進化:高密度なキーワードベースから可視化へ
ChatGPT のメモリシステムは 2023 年の GPT-4 登場後、初期の「スレッド内でのみ文脈が維持される」状態から進化しました。2024 年 2 月に導入された V1 では、ユーザーが「覚えていて」と指示することで事実を抽出し、リスト化してコンテキストに追加する仕組みでした。
しかし、この初期バージョンには重大な欠陥がありました。
- 管理負担の偏り: ユーザーが記憶の作成や削除を手動で行う必要があり、会話の流れを妨げました。
- 情報の鮮度問題(Staleness): 一度登録された事実(例:「ベングルールに行く予定」)は、状況が変わっても自動的に更新されず、古くなった情報がコンテキストに残り続けました。
2025 年 4 月に登場した V2 では、「ランニングプロファイル」と呼ばれる仕組みが導入されました。これは AI が数日ごとに過去の会話を分析し、重要な情報を抽出してプロフィールを更新する非同期処理です。ただし、このプロファイルは高密度なキーワードの羅列であり、ユーザーには非公開でした(一部のプロンプトで強制的に閲覧可能になるケースはあるものの、公式機能ではありません)。また、更新頻度が低いため、過去の推論が事実として誤って登録されるなどの鮮度問題は完全には解消されませんでした。
Claude の戦略:可読性とユーザー管理の重視
一方、Claude は 2025 年 8 月にメモリ機能を導入しましたが、そのアプローチは ChatGPT と対照的でした。初期の V1 ではプロファイルを持たず、過去の会話からキーワードや日時で検索する「ツール」を提供する方式を採用していました。
しかし、翌月(9 月)にリリースされた V2 で Claude もランニングプロファイルを導入しました。ここでの決定的な違いは以下の点です。
- 可読性の高い形式: ChatGPT のキーワードリストとは異なり、完全な文で記述されています。
- ユーザーの管理権限: プロファイルは設定画面から閲覧可能で、ユーザーが直接編集・削除できます。
- 更新頻度とサイズ: 1,000 トークン程度と ChatGPT(約 4,000 トークン)より小さく、24 時間ごとに更新されます。
現在、ChatGPT も V3 のアップデートでプロファイルの可視化と編集機能を一部導入し、両社は「ランニングプロファイル+検索ツール」というアーキテクチャへと収束しています。しかし、その実装哲学には依然として大きな隔たりがあります。
根本的な設計思想の違い:密度 vs. 透明性
両社のメモリシステムは似て非なるものです。シロック氏はこの違いを「設計思想の対立」と捉えています。
ChatGPT は高密度なキーワードベースのプロファイルを非公開で更新し、Claude は可読性の高い文書形式で 24 時間ごとに更新しユーザーが編集可能とする。
ChatGPT のアプローチは、LLM が限られた情報から文脈を推論する能力(インフェレンス)に依存しています。4,000 トークンという大容量のプロファイルには、旅行先や仕事の内容など多岐にわたる情報が凝縮されており、AI はこれらの「手がかり」から会話の文脈を構築します。
一方、Claude は 1,000 トークンのプロファイルを、人間が読みやすい文章で構成し、ユーザー自身がその内容を管理できることを重視しています。これは、AI の推論能力に過度に依存せず、ユーザーが自分の情報を明確に把握・制御したいというニーズに応えた設計と言えます。
メモリ管理の責任:ユーザーから AI へ、そして再びユーザーへ
初期のメモリシステムでは、記憶の作成と削除はユーザーの負担でした。しかし、現在の主要なプロダクトでは、この管理責任が AI に移管されています。
AI が非同期で自動的にプロフィールを更新するようになり、ユーザーは「閲覧」と「修正」の権限を持つようになりました。これは、ユーザーが会話に集中できる環境を提供するという点で大きな進歩です。しかし、シロック氏は依然として課題を指摘しています。
個別のプロダクト間でメモリが共有されない現状は、「個人 AI」の本質的な欠落であり、技術的限界よりも製品設計上の問題である。
例えば、ChatGPT のプロファイルには「2025 年にタイとトルコに行った」という矛盾する情報が残っているケースがあります。これは、AI が旅行先の選定プロセス(推論)を事実として記録してしまったためです。ユーザーが編集権限を持っていても、こうした誤った情報の検出や修正は依然としてユーザーに依存しており、完全な自動化には至っていません。
文脈統合の限界と製品設計の課題
現在のメモリシステムは、単なる会話履歴の保存を超えて、メールやカレンダーなどの外部ソースを跨いだ推論を行う段階にはまだ達していません。競合する情報の解決に AI が能動的に関与しない点は、製品設計上の大きな欠陥です。
また、業界全体で「RAG(検索拡張生成)」がメモリの実装方法として一般的だと考えられていましたが、実際には ChatGPT や Claude ともに単純なベクトル検索ではなく、独自のアーキテクチャを採用しています。これは、「メモリは単なる機能ではなく、製品固有の文脈管理戦略を構築する必要がある」という教訓を示唆しています。
メモリは計算資源の関数である
シロック氏は、「メモリは計算資源(Compute)の関数である」と指摘します。プロファイルの更新頻度やサイズは、GPU の制約とコストのトレードオフによって決定されます。
- ChatGPT: 更新頻度は低く(数日ごと)、プロファイルサイズは大きい(4,000 トークン)。→ サービングコストが高いが、更新コストは低い。
- Claude: 更新頻度が高い(24 時間ごと)、プロファイルサイズは小さい(1,000 トークン)。→ サービングコストは低いが、更新コストは高い。
理想的なメモリシステムであれば、毎回の会話後に更新し、無限の容量を持つことも可能でしょう。しかし、現実の GPU 制約の中で、各社が異なるトレードオフを選択しているのです。
まとめ:標準化への道と開発者への示唆
ChatGPT と Claude の進化は、業界全体がアーキテクチャの標準化に向かう中で、ユーザー体験とデータプライバシーのバランスをどう設計するかという課題を浮き彫りにしました。メモリシステムは、後付けの機能として導入されるものではなく、製品開発之初から自社独自の戦略として構築すべきものです。
メモリを外部に委託してはいけない。真剣なチームであれば、メモリは製品と共に進化させるべきものであり、単なる RAG の導入として安易に捉えてはならない。
開発者は、自社のプロダクト固有の文脈管理戦略を構築し、ユーザーが AI とより深く、信頼できる関係を築けるような設計を目指すべきです。
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