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コードが語る:CloudflareのSunil Pai氏、Code Modeの真価
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まず要点
CloudflareのSunil Pai氏は、従来のMCPツール呼び出しの非効率さを克服し、「Code Mode」によりLLMが直接コードを生成・実行する新アーキテクチャの必要性と、それがもたらす「状態マシンへの没入」というパラダイムシフトを提唱する。
コードが語る:Cloudflare の Sunil Pai 氏が描く、LLM とシステムを直結する「Code Mode」の未来
大規模な API を扱う AI エージェントにおいて、従来の JSON ベースのツール呼び出し(MCP)は「コンテキスト爆発」と「低速な往復処理」という致命的な欠陥を抱えていました。Cloudflare の Sunil Pai 氏は、この課題を解決する新たなパラダイムとして「Code Mode」を提唱します。これは LLM に JSON を生成させるのではなく、JavaScript などのコードを直接生成・実行させるアプローチです。単なるパフォーマンスの最適化を超え、AI エージェントがシステム状態に「没入」し、開発者と非技術者の境界を溶解させる新しいソフトウェアアーキテクチャの幕開けを告げるものです。
MCP の限界と「Code Mode」への転換
従来の AI アプリケーション構築では、数百ものツール(Google サービス、Jira、Wiki など)を JSON 形式で呼び出す「MCP(Model Context Protocol)」が標準的な手法でした。しかし、Sunil Pai 氏はこのアプローチに重大な問題があると言います。
「ツールが数個だけなら問題ありません。しかし、数百のツールをコンテキストに詰め込み始めると、モデルは埋め尽くされ、壊れ始めてしまいます。」
MCP の最大の問題点は、各 API 呼び出しごとにモデルとシステムの間で往復(ラウンドトリップ)を行う必要がある点です。複雑なタスクを実行するには、数十回のやり取りが必要になり、処理速度が著しく低下します。さらに、膨大な数のツール定義をプロンプトに含める必要があり、トークン使用量が爆発的に増加する「コンテキスト爆発」を引き起こしました。
これに対し、Cloudflare が採用したのがCode Modeです。モデルに対して JSON を生成させるのではなく、「JavaScript などのコードを直接生成して実行せよ」と指示します。このアプローチには明確な利点があります。
- 型チェックと構文エラーの検出: コードは型付き API を提供するため、モデルが型エラーや構文ミスを早期に発見できます。
- 学習データの活用: モデルはすでにテラバイト単位のコードデータでトレーニングされているため、自然な言語よりもコード生成の方が得意です。
- ループと並列処理の実装: 従来の JSON 呼び出しでは不可能だった、ループ処理や状態の保持、並列化といったエンジニアリング的な処理を、単一のコードブロック内で完結できます。
2,600 エンドポイントを「検索」と「実行」に集約した驚異の効率化
Cloudflare の API サーフェスには、なんと2,600 以上のエンドポイントが存在します。もし従来の MCP アプローチで各エンドポイントを個別のツールとして公開すると、最初の呼び出しだけで約120 万トークンが必要になります。これは現実的な運用を不可能にする数字です。
そこで Sunil 氏の同僚である Matt Carey が考案したのが、全 API エンドポイントをたった2 つのツールに集約する手法です。
- Search: API の全仕様(JSON)を読み込み、必要な関数を探す。
- Execute: 生成されたコードを実行する。
この「検索」と「実行」の 2 つのエンドポイントに、入力としてコードを受け付ける仕組みを導入しました。結果、トークン使用量は120 万から約 1,000 へと削減され、削減率は驚異的な99.9%に達しました。
「120 万〜150 万トークンというものを 1,000 トークンに削減しました。あり得ない話です。」
この効率化により、複雑なタスクも単一のコード実行で完了します。例えば、DDoS 攻撃を受けている最中に「違反 IP をすべて特定してブロックしてほしい」と指示した場合、従来の MCP では数回の往復が必要でしたが、Code Mode ではモデルが即座にコードを生成し、API 上で一発で処理を実行できます。
ハル(Harness):安全なサンドボックスと能力ベースのセキュリティ
「コードを生成して実行する」という強力な機能には、当然ながらリスクが伴います。そこで重要になるのがハル(Harness)と呼ばれる安全な実行環境です。これは単なるサンドボックスではなく、LLM がシステム状態を直接操作するための基盤となるアーキテクチャです。
このハルには以下のような重要な特性があります。
- 最小権限の原則: コンテナとは異なり、最初から機能を持たせず、「コードを実行すること」のみを許可します。外部へのネットワーク接続(fetch)や API 呼び出しは、明示的に許可された場合のみ実行可能です。
- 高速な起動とセキュリティ: Cloudflare は V8 Isolate を採用しています。これは約 10 年間にわたるセキュリティ強化が施されており、起動が非常に速く、隔離環境として最適です。
- 完全な可観測性: コードが何を実行したか、なぜその結果になったかを完全に追跡・監視できる必要があります。
「実行可能で能力を公開でき、非常に高速に実行できる何かが必要です。そして、すべての送信フェッチやネットワーク接続を制御できます。」
この環境では、「能力ベースのセキュリティ」が採用されます。モデルが何ができるかは、静的なルールではなく、動的に定義された能力(Capability)によって制御されます。これにより、AI エージェントは安全にシステムと対話しながら、複雑なタスクを遂行できるようになります。
状態マシンへの没入:LLM が「コード」ではなく「世界」を理解する時
Code Mode の真価は、単にツール呼び出しの効率化にあるだけではありません。これは、AI エージェントが「アプリを生成する」という従来の概念から、「既存の状態(State)に没入して操作する」という新しいパラダイムへの転換を示唆しています。
Sunil 氏は、有名な事例として Cloudflare Workers の作成者である Kenton が行った実験を紹介しました。Kenton は AI に小さな描画キャンバス(Excalidraw スタイル)を作成させました。そして、AI に「私と tic-tac-toe(三目並べ)をしよう」と指示しました。
この時、システムには tic-tac-toe のコードは存在していませんでした。しかし、モデルはキャンバスの状態(ストロークの配列やグリッドラインなど)を検査し、「これは三目並べの盤面だ。あなたは左上に X を置いたね」と理解しました。そして、AI は自ら描画アクションを実行してゲームを開始したのです。
「私たちはプログラムを生成するのをやめ、代わりに状態機械(State Machine)に宿るようになりました。」
これは、LLM が「コードを書く」のではなく、「システムの状態という文脈の中で振る舞う」という感覚です。まるで『攻殻機動隊』の草薙素子がネットワークに没入するかのような体験です。このアプローチにより、AI は事前に用意された複雑なロジックを学習しなくても、システムの現在の状態から瞬時にルールや挙動を理解して行動できるようになります。
エージェント向け DX と、開発者・非技術者の境界の溶解
この新しいアーキテクチャは、ソフトウェア開発のあり方そのものを書き換える可能性があります。これまで、複雑なシステムを操作するには「コードを書くスキル」が必要でした。しかし、Code Mode とハルが普及すれば、地球上のすべての人間が、システムと連携するコードを生成できる相棒にアクセスできるようになります。
「非技術者が受け入れられるトレードオフとして、自分たちのニーズに合わせてカスタムインターフェースを構築できることだった。LLM はこの境界を壊している。」
例えば、写真整理のタスクでさえ、非技術者は「画像を日付と場所別に整理して名前を変えて」と指示するだけで、背後では AI がコードを生成・実行し、システムを操作します。これにより、開発者向けツールとエンドユーザー向けアプリの境界は溶解し、パーソナライズされた動的アプリケーションが一般化する可能性があります。
この未来を実現するためには、従来の「UI 中心」の設計から脱却する必要があります。次世代のユーザーは AI エージェントそのものです。そのため、開発者は以下の要素を重視したエージェント向け DX(Developer Experience)を設計しなければなりません。
- Markdown ドキュメント: エージェントがタスクを理解するための明確な説明。
- 型定義: コード生成の精度を高めるための構造化データ。
- エラーメッセージ: 失敗から学習させるためのフィードバック。
まとめ
Sunil Pai 氏が語る Code Mode は、LLM が単なるチャットボットを超え、実際のシステム操作を行うための基盤となるアーキテクチャ転換です。JSON ベースのツール呼び出しという「間接的な」方法から、コードを介した「直接的な」相互作用へと移行することで、私たちはトークンコストの劇的削減と処理速度の向上を実現しました。
しかし、その真の意義はそこにはありません。LLM がシステムの状態に没入し、開発者と非技術者の境界を曖昧にするこのパラダイムシフトは、私たちがこれまで経験したことのない「コードが語る」世界への扉を開くものです。企業は今後、従来の UI 設計から、エージェントが安全に消費・操作するための API 仕様とセキュリティポリシー(能力ベースのセキュリティ)への投資へと舵を切る必要があります。
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