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取引デスクから臨床試験へ:適用型垂直 AI の共通点
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まず要点
金融と製薬という垂直領域における AI エージェント構築の共通プロセスと、ドメイン固有データが真の参入障壁となる実証的教訓。
取引デスクから臨床試験へ:垂直分野 AI に勝つ共通の 7 つのステップ
hedge fund(ヘッジファンド)と製薬テック企業という、一見すると全く異なる業界で「適用型垂直 AI」を構築した経験を持つ著者が明かすのは、業界を超えて通用する共通の構築プロセスだ。AI が専門家の判断を完全に代替できる時代はまだ来ないが、人間の知見をループに組み込むことで、真の競争優位性を築く道は明確になっている。
垂直 AI とは何か?「一般化」ではなく「特化」こそが命
まず、「適用型垂直 AI(Applied Vertical AI)」とは何かを整理しよう。これは特定の業界に特化し、その分野で働く人間の役割をシミュレートする AI のことだ。
例えば、Google 翻訳は教育やビジネスなど多様な用途に使われる「一般向け AI」だが、製薬テック企業が AI で新薬開発を行う場合や、法律事務所に特化した AI は「垂直 AI」に該当する。著者は hedge fund から製薬テック企業へ移った際、「業界が変われば手法も変わるはずだ」と思っていたが、驚くべきことに核心となるプロセスは全く同じだったと語る。
「ヘッジファンドは『速さと概ねの正しさ』が命だが、製薬業界は『絶対的な正確さ』を求められる。しかし、AI を構築し反復する本質的なプロセスは、この二つの世界で共通していた」
成功への 7 つのステップ:狭義化と独自データの重要性
垂直 AI の構築には、以下の 7 つのステップが有効だ。特に重要なのは、最初から「何でもできる AI」を作ろうとしないことと、独自データをいかに確保するかという点にある。
1. 問題を極限まで狭く定義する
多くのスタートアップが陥る失敗は、AI に「市場で最も有望な投資先を 3 つ選んで」といった広範なタスクを任せてしまうことだ。成功の秘訣は、タスクを細かく分解し、特定の市場や業界に限定することにある。
例えば、「米国の IT 株の中から、資本支出(CapEx)と AI 投資額に基づいて株価をランク付けする」といった具体的な指示を与える。AI エージェントには「税がない」ため、一つのエージェントで全てをこなそうとするのではなく、複数の専門特化型エージェントを構築するのが正解だ。
2. 独自データを収集・構造化する
これが最も重要かつ困難なステップだ。誰もがアクセスできるニュースや、JP モルガンなどの証券会社レポート、arXiv の論文は「コモディティ(汎用品)」であり、それだけでは ChatGPT や Claude に勝てない。
真の競争優位性(モート)となるのは、インターネット上に存在しない独自データだ。例えば:
- 金融業界: 過去の取引理論や、「なぜそのトレードが成功したのか/失敗したのか」という詳細な記録。
- 製薬業界: 成功した実験だけでなく、失敗した臨床試験のデータ。
多くの企業は失敗データを公開しない。FDA(米国食品医薬品局)も、不利益な結果を隠す企業に対し警告を出しているが、そのデータこそが AI が複雑な推論を行うために不可欠なのだ。この「非公開の失敗データ」や内部の取引理論を自前で収集・構造化できるかが、参入障壁となる。
3. プロンプトに人間の思考モデルを組み込む
プロンプト設計では、AI に「人間がその仕事をどう解決するか」という思考プロセス(メンタルモデル)を埋め込む必要がある。単なる指示ではなく、「A を確認し、次に B を比較し、最後に C を判断する」といった、専門家が持つ論理フローをコード化するのだ。
4. 可視化(Observability)の徹底
AI の動作を追跡・分析できる「可視化」ツールは必須だ。中身が見えなければバグも修正できない。この段階までは、優れたエンジニアなら短時間で完了する作業であり、これ自体が差別化要因にはならない。
なぜ「AI が AI を評価する」モデルでは失敗するのか?
ここからが本題の核心だ。多くのエンジニアは、「人間を介さず、AI 同士で評価し合う(LLM as a judge)」ことで効率化できると考えがちだが、垂直分野ではこれは致命的な誤りである。
LLM の自己検証には限界がある
数学やコーディングのように「正解」が明確な領域では、AI が自己評価して改善できる。しかし、金融のアルファ(利益)や新薬の開発においては、明確な正解が存在しない。AI は次の単語を確率的に予測するだけであり、「なぜそれが価値あるのか」という本質的な理解を持っていない。
「LLM に『これが正しいか』と聞けば、専門用語を使ってもっともらしくごまかす(ジャージング)だけだ。人間が持つ直感的な判断力を AI は持ち得ない」
人間の介入(AI in the Loop)が不可欠
エンジニアはコードの良し悪しがわかるが、金融や製薬の専門的な文脈では、AI の出力が本当に価値あるものか判断できない。そのため、「AI が候補を提示し、最終判断と検証は人間が行う」という「AI in the loop(ループ内 AI)」モデルが唯一の実用的な解となる。
このプロセスには、その分野の専門家(トレーダーや研究者)が不可欠だ。彼らがデータを注釈付けし、AI の出力を検証することで、初めて信頼性の高いシステムが完成する。
結論:ツールはコモディティ化され、データと人間こそが勝者になる
インフラやツールの構築自体は容易になりつつある。真の競争優位性は、「非公開のドメイン固有データ」と、それを検証・活用できる「専門家の知見」をいかに統合するかにかかっている。
垂直 AI を成功させるには、AI に任せるのではなく、その分野のプロフェッショナルをチームに迎え入れ、彼らの思考プロセスと隠されたデータを AI に組み込むことが最短ルートだ。自動化の夢よりも、人間と AI が協働する現実的なモデルこそが、持続可能なビジネスを生み出す鍵となる。
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