エージェント型RAGは本当に必要なのか? 〜RAGの社内実験と最新研究から考察
HEROZ Tech Blogは、2026年に注目されるAgentic RAGについて、社内実験によるエンタープライズ検索タスクでの検証結果と最新研究の議論を整理した記事を公開した。
キーポイント
Agentic RAGの社内実験結果
エンタープライズ検索に近いタスクでの検証結果が紹介されており、実環境での性能評価が行われている。
最新研究の議論の整理
Agentic RAGをめぐる研究動向や技術的議論が整理されており、現状の課題や方向性が示されている。
2026年への注目技術としての位置付け
記事はAgentic RAGを2026年に注目される技術として取り上げ、将来性について言及している。
影響分析・編集コメントを表示
影響分析
この記事は、次世代RAG技術として注目されるAgentic RAGの実証研究と研究動向をまとめており、企業の技術選定や研究開発の参考となる。ただし、具体的な性能数値や実用化の詳細が限定的なため、現時点では技術動向の把握に留まる内容と言える。
編集コメント
技術ブログとして研究動向を整理した内容であり、具体的な実用化事例や性能比較データが不足している点が惜しい。今後の実証研究の進展に期待したい。
2026年に注目を集めるAgentic RAGについて、社内実験による比較結果と最新の研究動向を紹介します。エンタープライズ検索に近いタスクでの検証結果を示し、Agentic RAGに関する研究上の議論を整理します。
原文を表示
はじめに
2025年頃から「AIエージェント」というキーワードが急速に広まり、2026年に入ってからはその応用の一つである Agentic RAG も注目を集めています。
RAG (Retrieval-Augmented Generation) は、検索によって取得した文書を元にLLMが回答を生成するアーキテクチャで、エンタープライズ検索や社内ナレッジ検索などで広く利用されています。近年は、単純な検索+生成の構成から、ReRankingやSelf-RAGなど様々な改良手法が提案されており、RAGの設計も進化を続けています。
その延長線上にあるのが、LLMが検索やツール利用を動的に制御する Agentic RAG です。
従来のRAGは検索→回答生成という比較的シンプルなパイプラインですが、Agentic RAGではLLMが状況に応じて検索や推論を繰り返しながら回答を構築します。
RAGの種類
このような構造により、より複雑な問題に対応できる可能性がある一方で、
本当に精度は向上するのか
追加されるコストや複雑さに見合うのか
といった疑問もあります。
そこで今回は、社内でいくつかのRAG手法を比較する簡単な実験を行いました。また、2026年に発表された最新の研究論文も合わせて紹介し、Agentic RAGの現状を整理してみたいと思います。
Agentic RAGを試してみた
実験設定
まず、複数のRAGアーキテクチャを比較する簡単な実験を行いました。
実験は社内の実験プラットフォーム上に構築したRAG環境を用いて実施しました。評価には 弊社製品の関連文書から構成されたQA評価セット を使用しています。内容としては、製品ドキュメントを対象とした典型的なエンタープライズ検索に近いタスクです。
評価方法は LLM-as-judge による自動評価を採用しました。回答生成および評価には Claude 4.5 Sonnet を使用しています。
今回比較した手法は以下の5種類です。
Naive RAG
最もシンプルなRAGです。
検索で取得したチャンクをそのままコンテキストとしてLLMに渡し、回答を生成します。今回は検索結果の上位4チャンクを使用しました。
RAGのベースラインとして広く使われている構成です。
RAG + ReRanking
検索で取得したチャンクを 再ランキング (ReRanking) によって選別する構成です。
今回は
検索で10チャンク取得
ReRankerで重要度を評価
上位4チャンクをLLMへ入力
という手順を採用しました。
RAGの精度改善手法として比較的よく使われる構成です。
ReAct
ReAct (Reasoning and Acting) は、LLMが推論とツール利用を交互に行うエージェント型のアプローチです。
RAGをツールとしてLLMに与え、必要に応じて検索を行いながら回答を生成します。
論文
https://arxiv.org/abs/2210.03629
Adaptive RAG
Adaptive RAGは、回答の信頼性を高めるために 複数段階の検索や検証を行うRAG構成です。
検索結果の確認や再検索を行いながら回答を生成するため、より複雑なワークフローになります。Agentic RAGの代表的な構成の一つとして研究されています。
論文
https://arxiv.org/abs/2403.14403
LangGraphの実装例
https://docs.langchain.com/oss/python/langgraph/agentic-rag
Deep Agent
LangChainで公開されている Deep Agent も比較対象として評価しました。ツールを利用しながら複数ステップの推論を行う、より汎用的なエージェント型アーキテクチャです。
https://github.com/langchain-ai/deepagents
実験結果
各手法の評価結果をまとめたものが次の表です。
Agentic RAGの実験結果
結果を見ると、評価スコアには大きな差は見られませんでした。
一方で、Agentic RAGに分類される手法では
LLM呼び出し回数
トークン消費量
レイテンシ
が増加する傾向が見られました。
今回の設定では、Naive RAGやReRanking付きRAGでも十分に高い性能が得られるという結果になりました。
もちろんこの結果だけで一般的な結論を出すことはできませんが、少なくとも今回のようなエンタープライズ検索に近いタスクでは、Agentic RAGの明確な優位性は確認できませんでした。
論文紹介①
Is Agentic RAG worth it?
ちょうど実験を行っていたタイミングで、興味深い論文が公開されました。
Is Agentic RAG worth it?
https://arxiv.org/abs/2601.07711
この論文では、従来のRAGとAgentic RAGを複数のタスクで比較し、その費用対効果を分析しています。
論文の主な結論は次の通りです。
Agentic RAGは推論能力自体は高い
しかし精度改善は限定的
一方で 計算コストとレイテンシは増加する
その結果、実運用の観点では Enhanced RAG(ReRankingなどを組み合わせたRAG)でも十分な場合が多いと述べられています。
今回の社内実験の結果も、少なくとも方向性としてはこの論文の結果と一致するものでした。
論文紹介②
A-RAG: Scaling Agentic Retrieval-Augmented Generation via Hierarchical Retrieval Interfaces
一方で、Agentic RAGの可能性を示す研究も発表されています。
A-RAG: Scaling Agentic Retrieval-Augmented Generation via Hierarchical Retrieval Interfaces
https://arxiv.org/abs/2602.03442
この研究では、Agentic RAGが十分に性能を発揮できない原因の一つとして、検索インターフェースの設計を指摘しています。
従来のRAGでは、
一度の検索で固定数のチャンクを取得する
その結果をそのままLLMに渡す
という比較的単純な構造になっています。
A-RAGではこれを拡張し、
キーワード検索
セマンティック検索
文書単位の取得
チャンク単位の取得
といった複数の検索インターフェースをLLMに提供します。
これにより、LLMが状況に応じて検索戦略を選択できるようになり、より複雑な情報探索や multi-hop reasoning が可能になるとしています。
つまり、
現在のAgentic RAGがうまく機能しないのは
アーキテクチャがまだ発展途上である可能性がある
という立場の研究と言えます。
おわりに
今回は、社内で行った簡単な比較実験と、2026年に公開された2本の論文を紹介しました。
今回の実験では、少なくともエンタープライズ検索に近いタスクにおいては、Agentic RAGの明確な優位性は確認できませんでした。一方で、研究コミュニティではAgentic RAGの改良に関する研究も活発に進んでいます。
Agentic RAGについては、研究や実装の方向性によって評価が変わる可能性もあり、まだ議論の続いているテーマと言えそうです。
今後の研究や実装の動向も追いながら、引き続き最良のサービスを提供できるよう、今後の研究や実装の動向も追っていきます。
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