ツール導入時の法務確認リードタイム削減
DeNAグループは、SaaS導入時の法務確認リードタイムを削減するため、LLMによる利用規約チェックの自動化とkintoneフォームの入力項目整理を実施し、申請から利用開始までの待ち時間を大幅に短縮した。
キーポイント
LLMによる利用規約チェックの自動化
法務担当者が目視で行っていた利用規約の確認作業をLLMに任せ、リスクの低いツールについてはLLMのチェック結果サマリと事業部承認者の承認のみで利用開始可能とした。
kintoneフォームの入力項目整理によるヒアリング工数削減
法務確認に必要な情報を事前に整理するため、kintoneフォームの質問項目を整理し、JavaScriptによる条件分岐制御を実装することで、事業部門への追加ヒアリング工数を削減した。
kintoneアプリの統合によるユーザー利便性向上
「ツール利用申請」と「購買・ライセンス付与申請」という別々のkintoneアプリを「ツール利用・購買申請」として統合し、申請から調達までを1つのアプリで完結できるようにした。
具体的な効果測定と今後の改善計画
新アプリリリース後1ヶ月で、申請の約半数がLLMチェック対象となり、その9割はLLMのみで法務確認を完了。今後はAPI連携による完全自動化と「ツールマスタ」との連携強化を検討している。
影響分析・編集コメントを表示
影響分析
この記事は、AI技術(特にLLM)を企業の内部業務プロセスに具体的に適用し、実務上のボトルネックを解決した貴重なケーススタディである。法務・コンプライアンス分野という慎重さが求められる領域でのLLM活用実績は、他の企業における同様の業務効率化の参考モデルとなる可能性が高い。
編集コメント
AI技術の実務応用例として非常に具体的で参考になる。特に法務分野というリスク管理が重要な領域での成功事例は、AI導入に対する企業の慎重姿勢を和らげる効果が期待できる。
ツール導入時における法務確認のリードタイム削減
こんにちは、IT本部IT戦略部テクニカルオペレーショングループの成田です。 DeNAグループにおけるITツールやシステムの運用管理、改善業務を担当しています。
本記事では、SaaS などのサービスを社内に導入する際に必要となる法務確認のリードタイム削減を目的として行った施策についてご紹介します。
DeNAグループでは、SaaS などのクラウドサービスやインストール型ソフトウェアといった各種ツールの導入時に、ツール利用申請というkintoneアプリで申請を受け付けており、このプロセスの中でセキュリティ部門や法務部門などによるリスク確認を実施しています。
中でも、法務部門による法務確認プロセスは、ツール毎の利用規約内容の確認に加え、利用用途やツール上で取り扱う情報などのユースケースについて事業部へのヒアリングを行った上で、専門知識を持つ担当者が法的な整理を行う重要な工程です。この厳格なプロセスを踏むことで、リスク発生の可能性を大きく低減できています。
しかしながら、この法務確認プロセスは、法務部門と事業部間の密な連携や、多岐にわたる情報の精査・判断のために多くの時間を要しており、ツール利用申請全体の待ち時間のうち約8割を占めるという課題を抱えていました。
そこで、DeNAグループのビジネススピードをさらに加速させるために、この法務確認作業を効率化し、申請から利用開始までのリードタイムを削減できないかを検討しました。
まず、法務部門の担当者にヒアリングを実施し、作業に時間を要している主な要因として、以下のような課題があることが分かりました。
ツールの利用規約を確認することに時間がかかる
利用規約の文章量が非常に多く、リスクチェックを目視で行うために多くの時間を要す
事業部へのヒアリングや情報整理に時間がかかる
申請時に事業部から提供される情報が不十分、あるいは分かりづらいケースがあり、事業部への追加ヒアリングと情報の整理に時間を費す
課題分析の結果に基づき、以下の施策を検討しました。
- LLMによるツール利用規約チェック
ツール利用規約について、これまで法務担当者が目視で行っていた確認作業を、LLM(大規模言語モデル)に行わせる仕組みを検討しました。
新しい法務確認フローは、以下の通りです。
LLM がツール利用規約をチェックし、サマリを作成
利用ケースのリスク度合いの判定
類型的にリスクの低いツールかを当社の基準に基づいて判定する
申請者所属部門のツール利用承認者にてLLMチェック結果のサマリを確認
類型的にリスクの低いツールについては、承認者の承認のみで利用開始
懸念等があれば法務担当者(人)へエスカレーション
この仕組みにより、これまで時間を要していた利用規約の確認の一部を LLM に任せ、特定ケースの場合は今まで通り、法務担当者(人)にエスカレーションすることで法務部門の工数を削減します。
なお、LLMについては、入力データが学習に利用されないセキュアな環境を利用しています。また、法務担当者でプロンプトを適宜チューニングし、継続的に精度を改善していける仕様としました。

※説明の便宜上、一部の判定条件を簡略化しています。
- kintoneフォームの入力項目整理
先ほど紹介した法務確認フローにおいて、法務担当者(人)による確認が必要となるケースでは、事業部門へのヒアリング工数が大きな負担となります。
そこで、このヒアリング工数を削減するため、kintoneフォームの質問項目を整理し、事前に必要な情報が整理された状態で法務担当者にプロセスが回るフローを検討しました。
そのために、まずは法務観点でのリスクチェックを行う際に、これまで法務部門から事業部門へヒアリングしていた内容について、フロー図として整理しました。
それから、フロー図における各質問項目をkintoneフォームのフィールドとして設定した上で、Javascript により各フィールドの表示・非表示や入力可否の設定などの制御を行い、フローの分岐に沿ったヒアリングをフォーム上で実現しました。
今までは「ツール利用申請」が完了した後、「購買・ライセンス付与申請」という別のkintoneアプリでツールの調達を対応していました。
上述の新機能実装と併せ、利用者の利便性向上のため、これらの既存kintoneアプリを統合し、「ツール利用・購買申請」としてリニューアルしました。これにより、ユーザーは複数のkintoneアプリを行き来することなく、1つのkintoneアプリでツール利用の申請から調達までを完結できるようになります。
新kintoneアプリのリリース後1ヵ月間において、申請から利用開始となるまでの総待ち時間と、法務確認に関連した作業のみの待ち時間を、それぞれリリース前と比較した結果は以下の通りでした。
2025/09/01~2025/09/30
2025/10/1~2025/10/31
大幅な工数削減ができた要因としては、施策1.で述べた通り、リスクの低いケースにおいて、これまで人による法務確認が行われていたところを、「LLMチェック+事業部のツール利用承認者による承認」へ置き換えたためです。
実際に新kintoneアプリでは、計測期間における申請のおよそ半数の30件が上記の条件に該当し、LLMによるリスク確認の対象となっています。
また、そのうち3件は申請部門から法務担当者(人)へのエスカレーションが必要となりましたが、それ以外の27件はLLMによるチェックのみで法務確認を完了しています。
LLMによるリスク確認+法務担当者(人)へのエスカレーション
さらに、法務担当者(人)による確認が必要となったケースについても、以下の通り、1件あたりの待ち時間を約半分に削減できていることから、施策2.についても十分に効果があったものと考察できます。
法務担当者(人)による確認の待ち時間(1件あたり)
LLMチェックについて、現時点では申請対応者(人)が申請されたkintoneレコードのデータを専用の WebUI に入力し、出力結果をkintoneレコードに手動入力するという作業を行っています。そのため、API連携によりこの作業を自動化することで、申請対応者の工数を削減することを検討しています。
また、ツール利用・購買申請は、DeNAグループで過去にリスク確認を実施したツールの情報を一元管理している別のkintoneアプリ「ツールマスタ」と連携していますが、このツールマスタについて、ツール利用・購買申請との親和性をより高めるために仕様を見直すことを検討しています。
本記事では、ツールを社内導入する際に必要となる法務確認のリードタイム削減を目的とした施策の内容について紹介しました。
今回ご紹介した施策の実施により、以下のような全社メリットを創出できました。
ツール利用申請から利用開始までのリードタイム削減
本記事でご紹介した取り組みが、皆さまの参考になれば幸いです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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原文を表示
こんにちは、IT本部IT戦略部テクニカルオペレーショングループの成田です。 DeNAグループにおけるITツールやシステムの運用管理、改善業務を担当しています。
本記事では、SaaS などのサービスを社内に導入する際に必要となる法務確認のリードタイム削減を目的として行った施策についてご紹介します。
DeNAグループでは、SaaS などのクラウドサービスやインストール型ソフトウェアといった各種ツールの導入時に、ツール利用申請というkintoneアプリで申請を受け付けており、このプロセスの中でセキュリティ部門や法務部門などによるリスク確認を実施しています。
中でも、法務部門による法務確認プロセスは、ツール毎の利用規約内容の確認に加え、利用用途やツール上で取り扱う情報などのユースケースについて事業部へのヒアリングを行った上で、専門知識を持つ担当者が法的な整理を行う重要な工程です。この厳格なプロセスを踏むことで、リスク発生の可能性を大きく低減できています。
しかしながら、この法務確認プロセスは、法務部門と事業部間の密な連携や、多岐にわたる情報の精査・判断のために多くの時間を要しており、ツール利用申請全体の待ち時間のうち約8割を占めるという課題を抱えていました。
そこで、DeNAグループのビジネススピードをさらに加速させるために、この法務確認作業を効率化し、申請から利用開始までのリードタイムを削減できないかを検討しました。
まず、法務部門の担当者にヒアリングを実施し、作業に時間を要している主な要因として、以下のような課題があることが分かりました。
ツールの利用規約を確認することに時間がかかる
利用規約の文章量が非常に多く、リスクチェックを目視で行うために多くの時間を要す
事業部へのヒアリングや情報整理に時間がかかる
申請時に事業部から提供される情報が不十分、あるいは分かりづらいケースがあり、事業部への追加ヒアリングと情報の整理に時間を費す
課題分析の結果に基づき、以下の施策を検討しました。
- LLMによるツール利用規約チェック
ツール利用規約について、これまで法務担当者が目視で行っていた確認作業を、LLM(大規模言語モデル)に行わせる仕組みを検討しました。
新しい法務確認フローは、以下の通りです。
LLM がツール利用規約をチェックし、サマリを作成
利用ケースのリスク度合いの判定
類型的にリスクの低いツールかを当社の基準に基づいて判定する
申請者所属部門のツール利用承認者にてLLMチェック結果のサマリを確認
類型的にリスクの低いツールについては、承認者の承認のみで利用開始
懸念等があれば法務担当者(人)へエスカレーション
この仕組みにより、これまで時間を要していた利用規約の確認の一部を LLM に任せ、特定ケースの場合は今まで通り、法務担当者(人)にエスカレーションすることで法務部門の工数を削減します。
なお、LLMについては、入力データが学習に利用されないセキュアな環境を利用しています。また、法務担当者でプロンプトを適宜チューニングし、継続的に精度を改善していける仕様としました。

※説明の便宜上、一部の判定条件を簡略化しています。
- kintoneフォームの入力項目整理
先ほど紹介した法務確認フローにおいて、法務担当者(人)による確認が必要となるケースでは、事業部門へのヒアリング工数が大きな負担となります。
そこで、このヒアリング工数を削減するため、kintoneフォームの質問項目を整理し、事前に必要な情報が整理された状態で法務担当者にプロセスが回るフローを検討しました。
そのために、まずは法務観点でのリスクチェックを行う際に、これまで法務部門から事業部門へヒアリングしていた内容について、フロー図として整理しました。
それから、フロー図における各質問項目をkintoneフォームのフィールドとして設定した上で、Javascript により各フィールドの表示・非表示や入力可否の設定などの制御を行い、フローの分岐に沿ったヒアリングをフォーム上で実現しました。
今までは「ツール利用申請」が完了した後、「購買・ライセンス付与申請」という別のkintoneアプリでツールの調達を対応していました。
上述の新機能実装と併せ、利用者の利便性向上のため、これらの既存kintoneアプリを統合し、「ツール利用・購買申請」としてリニューアルしました。これにより、ユーザーは複数のkintoneアプリを行き来することなく、1つのkintoneアプリでツール利用の申請から調達までを完結できるようになります。
新kintoneアプリのリリース後1ヵ月間において、申請から利用開始となるまでの総待ち時間と、法務確認に関連した作業のみの待ち時間を、それぞれリリース前と比較した結果は以下の通りでした。
2025/09/01~2025/09/30
2025/10/1~2025/10/31
大幅な工数削減ができた要因としては、施策1.で述べた通り、リスクの低いケースにおいて、これまで人による法務確認が行われていたところを、「LLMチェック+事業部のツール利用承認者による承認」へ置き換えたためです。
実際に新kintoneアプリでは、計測期間における申請のおよそ半数の30件が上記の条件に該当し、LLMによるリスク確認の対象となっています。
また、そのうち3件は申請部門から法務担当者(人)へのエスカレーションが必要となりましたが、それ以外の27件はLLMによるチェックのみで法務確認を完了しています。
LLMによるリスク確認+法務担当者(人)へのエスカレーション
さらに、法務担当者(人)による確認が必要となったケースについても、以下の通り、1件あたりの待ち時間を約半分に削減できていることから、施策2.についても十分に効果があったものと考察できます。
法務担当者(人)による確認の待ち時間(1件あたり)
LLMチェックについて、現時点では申請対応者(人)が申請されたkintoneレコードのデータを専用の WebUI に入力し、出力結果をkintoneレコードに手動入力するという作業を行っています。そのため、API連携によりこの作業を自動化することで、申請対応者の工数を削減することを検討しています。
また、ツール利用・購買申請は、DeNAグループで過去にリスク確認を実施したツールの情報を一元管理している別のkintoneアプリ「ツールマスタ」と連携していますが、このツールマスタについて、ツール利用・購買申請との親和性をより高めるために仕様を見直すことを検討しています。
本記事では、ツールを社内導入する際に必要となる法務確認のリードタイム削減を目的とした施策の内容について紹介しました。
今回ご紹介した施策の実施により、以下のような全社メリットを創出できました。
ツール利用申請から利用開始までのリードタイム削減
本記事でご紹介した取り組みが、皆さまの参考になれば幸いです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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